Day41:「クラッシュ」(2004)

第78回アカデミー賞(2006)作品賞受賞映画です。
個人的には、アカデミー賞・芥川賞などの受賞作品は、たいてい期待外れなのですが。
この映画は冠負けしない、心に深く語りかけてくる作品でした。

映画冒頭、ロサンゼルス市警察の黒人刑事グラハムは、公私ともにパートナーであるリア(ヒスパニック系)と捜査中の事件現場に向かいます。
しかし途中で、韓国系女性キム・リーの運転する車に追突されてしまいます。
事故直後、彼女は一方的に激しい言葉で二人を責め立てます。その感情的な主張に困惑するリア。
この映画では、多民族国家であるアメリカにはびこる差別、偏見、憎悪がふんだんに描かれています。
冒頭のやりとりは、人種の異なる者同士の壁を印象付け、その後の登場人物たちの緊張感や対立を強調する役割を果たしています。

そんなひと悶着の後に、事件現場に到着したグラハムは、被害者を見て呆然とします。
そこから物語はその36時間前にさかのぼり、まったく事故に関係しない人々の出来事も絡めながら、事故が起こるべき過程をたどっていきます。
はじめ時系列がつかみにくいうえに、次々と新たな登場人物が出てきて、ストーリーの展開についていくのに苦労します。
しかし後々、彼らの思惑や行動の余波は、余すところなくつながりあっていく伏線として機能するのです。

ペルシャ系人種のファハドと彼の娘のドリは、弾丸を買おうと議論している際、銃屋の主人は「オサマ」と呼ばれ怒り狂います。

地区検事リックと彼の妻ジーンは、若い黒人男性アンソニーとピーターを警戒して避けたために彼らの怒りを買い、銃を突きつけられ車を強奪されます。

映像監督のキャメロンと妻クリスティンの黒人セレブ夫婦は、強奪されたSUV捜索中だった差別主義者である白人警官ライアンに、嫌がらせの尋問を受けます。

同行していた同じく白人警官のトムは、そんなライアンを激しく嫌悪しますが、彼自身も独りよがりの正義をもつ人物です。

我々日本人には「どうしてそこまで」と思わざるを得ない、生産性のない小競り合い、一方的悪意に満ちたぶつかりあいの数々。
自身が偏見で苦しんでいるのに、やはり他者を偏見まみれで見てしまう。そんな偏見が生まれるのは往々にして知識のなさですが。
それ以外にも、各々が置かれた立場への不安のはけ口として、差別感情を抱いていたり、ボタンの掛け違いでしかない相互理解の欠如から、憎悪を増幅させていたりと、負の連鎖だらけ。
しかしそれもあるいは、人種問題のほとんどない日本人ならではの、高みの見物的な偏見かもしれません。

様々な人種間の誤解と対立「クラッシュ」がタイトルですが、同時に彼らの「和解」も物語のテーマになっています。
そうして最終的に自らを省みる者。逆に思いがけない悪に堕ちる者。
冒頭の事故に向かって、交錯する人間関係と彼らが織り成すドラマは、見るものに多くのことを語り掛けてきます。
ぜひ耳を澄ませてください。

【輸入盤ブルーレイ】【新品】CRASH (2004)
価格:1,990円(税込、送料別) (2025/2/10時点) 楽天で購入

コメント

タイトルとURLをコピーしました