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Book:21「神様の定食屋」(2017)中村 颯希 著

システム・エンジニアとして働く主人公哲史は、ブラック企業で社畜と化した人物。
五年ほど前に、父親が脱サラして定食屋「てしをや」を始め、母・妹の志穂3人で繁盛させていましたが、一人疎外感も感じていました。
ところが不慮の事故により、両親はそろって帰らぬ人に

高校生の時から店を手伝っていた志穂は、調理師の資格を取るため短大へ進学するなど、両親以上にこの「地元の人情派食堂」並々ならぬ愛情を注いていました。
両親の死に大きなショックを受けながらも、なんとか店を存続させよう躍起やっきになっています。しかし責任感の強さゆえに、一人で支えるには限界を感じてもいました。そこで兄を頼ることに。

勝気な妹のたっての願いに、哲史は新たに設けられた会社の「休職制度」を利用し、期間限定で店を手伝うことになりました。
ところが彼自身は料理がまったくできません。やることなすことうまくいかず、志穂にののしられるはめに。

不満の募った哲史は、ふと立ち寄った神社「いっそ誰かに体を乗っ取ってもらって、料理を教えてほしい」と愚痴をこぼします
すると、本当に神様が現れて憑依させた魂に料理を教わる代わりに、その魂の望む相手に料理を振舞い、未練を解消してやってほしい」と願いをかなえられる?ことに

あまり手にすることのない、いわゆる「ライトノベルズ」だったのですが、言葉遊びが巧みといいますか、豊富な語彙と知識をふんだんに反映させた、テンポの良い文章運びにまず引き込まれました。
「両親の死」という不遇なシチュエーションに見舞われる主人公ですが、ポップで遊び心のある描写で、新たな生活の始まり、そして信じがたいような超常現象までも、自然な流れで読者をいざないます。

突如現れた神様と、未練を残す魂。
哲史は神様のいうその魂に体を乗っ取られるものの、ベテラン主婦の手際のよい「チキン南蛮料理」づくりに手をかす形で、結果手取り足取り調理を教わった形になりました。

片付けを終えた食堂で調理をする間、脳内で哲史は自身に憑依した霊「時江さん」と会話を交わし、彼女の状況や想いを聞くことになります。彼女は決してこわいお化けではなく、優しいお母さん。

やがてお客さんとして店に現れたのは、母を亡くし傷心の時恵さんの息子でした。
亡き母の味に驚く息子。直接ではないものの、思いのたけを伝える母
そこで母子の思い残しを解決させるだけでなく、なんと哲史自身の問題にも解決策が示される結果につながります。

以後も哲史は行き詰まるごとに、お供えを携え参拝。とんだ酒好きの神様だということもわかり、お供えはおいしいお酒が定番化していきます。
その都度神様は、心残りのある霊を憑依させ、料理を通してその想いを昇華させ、最終的にはうまく哲史の悩みにも道筋をつけていきます。

哲史と霊のやりとり、霊の思い残した誰かへの優しい愛情
現実的に様々な問題を抱え、気の強い妹と時に衝突しながらも、彼女を守る強い意志と深い優しさに満ちた哲史
葛藤しながらも、兄しか頼る人間がいないことに、時に不安と寂しさに押しつぶされそうになる志穂
そんな彼らを導くのは、適当でユニーク、けれど実は策士な神様

くすっと笑える展開と、ホロっと涙する結末。
短編の一話完結ですが、次々と登場人物にもつながりが生まれ、兄妹を取り囲む状況も変化していきます。そして毎回、おいしい料理が登場して、食欲も刺激されちゃいます!

正直なんの期待もなく、暇つぶしで手にした一冊でしたが、優しさに満ちた笑いと感動に癒され、すっかりファンになりました。
現在4巻まで刊行されています。ネットや電子書籍でも気軽に読むことができますので、ちょっとした隙間時間に、一度ぜひ目を通してみてください!

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