本日ご紹介するのは、かつて「東大・京大で一番読まれた本」というポップが話題にもなったロングベストセラー本です。
40年も前の発行にも関わらず、いまだに全国大学生協の人気本というからすごい。私自身かなり昔に手に取った記憶はあるのですが、図書館でワイド版を目にして何気なく読み直してみたところ。改めて多くの気づきがあって驚きました。
そもそも東大・京大生に人気だなんて、どんなに難しい本だろう?なんて恐れないでくださいね。
エッセイ超の砕けた語り口でたくさんの比喩を用い、豊富な知識をもとにしたたとえ話がふんだんに取り入れられ、むしろ非常に読みやすい部類の本だと思います。
冒頭では『グライダー人間』という、この本を代表する有名な比喩が登場します。
空を飛ぶ姿は一見すると同じ「グラインダー」と「飛行機」。
しかし「自力で」飛んでいる飛行機と違い、グラインダーは「引っ張られて」飛ぶものです。そして筆者は『学校はグラインダー人間の訓練所である。飛行機人間はつくらない。』と断じられおられます。
受験勉強という「指導者に与えられた正解を出す訓練(グライダー養成)」でトップを走ってきた東大生に、このたとえが刺さるのは想像にかたくありません。
まあ彼らが高性能なグラインダーなら、勉強嫌いだった私など、せいぜいチラシで折った紙飛行機程度であります。そんな紙飛行機なりに獲得した「自ら考える」飛行能力は、社会に出てから身に付けたと実感します。
また人間の頭を倉庫に見立て、教育がいかに知識を詰め込むことだけをよしとしてきたか、という話もわかりやすい。仮にも教育学部卒で、長年塾講師だった私にはちと耳が痛いですが。
しかしこの倉庫としての能力など、それこそ当時のコンピューターにすら太刀打ちできるはずありません。外山氏は、人間は単なる倉庫ではなく(もちろんその役割も必要ですが)『新しいことを考え出す工場でなくてはならない』と訴えます。
そのためになんと「忘却」が必要だという発想もまた、虚をつかれながら的を射ていてうならされました。
工場にただただ不要なものがあっては、作業効率が落ちます。それらがそぎ落とされてこそ、新しいものが生み出されるのだと。
ただし工場(創造者)になりうることこそが、人間がコンピューターに勝る点だと論じられているのは…昨今のすさまじい勢いのAI相手ではもはや怪しいやもしれません。
それでも改めて、先見の明のある方たちは早くから憂えていた問題なのだと考えさせられるではありませんか。
また著書や講演の多い外山氏は、あらゆる情報を常にストックし、思い付きやアイディアを記録する必要があります。そこで新聞や雑誌の切り抜きを集める「スクラップ」や、分類ごとに思い付きをまとめた「カード作り」など、なんともアナログな手法が登場するのはご愛敬。
しかし現代社会では絶滅に近いながら、その過程にはハッと気が付かされるものもあります。
読んだり書いたりしていくうちに、自分に本当に必要なものだけが残っていく。
さらに時間をおいて見返すことで、真に興味のあるものだけに気が付かされる。
こんまりの「ときめき」による断捨離にも似ていますよね。モノだけでなく、アイディアや情報も断捨離が大事で、そのやり方は同じなのでしょう。
またそれらアイディアを寝かせることで、いくつかの情報や知識が相互作用し、発酵してなんとも美味な酒(洗練された思考)が出来上がるという発想。そうしてできたものを上手に混ぜ合わせることで、素敵なカクテル(寄せ集めでない文章)が誕生するというセンス。
酒飲みには聞いているだけでうれしくなることも?
アイディアを寝かせる意味では、子ども時代など古い記憶を語ってみると、強く心に残っていることだけが研ぎ澄まされ形を表すというのも納得でした。
私は今このブログで、自身の20年以上前のワーキングホリデー体験記をつづらせていただいていますが。はじめはあまり詳細を覚えていないし、2回くらいにわけていけるかな?と思っていたにも関わらず。いざ書き出してみると次々と印象深かい思い出がよみがえり、気が付けばすでに8記事にまで膨らみました。あと1記事で終わる予定ですが、もう少し増えそうな気も。
そして情報の取捨選択と純化について述べられている『情報の”メタ”化』の章では、個人的に昨今依存しがちなAI回答について警鐘を鳴らしているように感じました。
真っ先に目にする第一次情報(ニュースや新聞)があり、それを要約したり評論されたりした第二次情報は興味があれば行きつくものです。さらにそれらが昇華された第三次情報へ、自ら思想を整理していくことの大切さ。この作業はあくまで、自分で行うものです。
しかし今ではこれをAIにさせてしまって、一次・二次の出所も確認しないその三次情報を「正解」として鵜呑みにしがちです。
先に倉庫のように知識を詰め込むことに否定的な意見はありましたが、知識をたくさん得ること自体は必須だと筆者は語ります。しかしそれらをただ蓄積するのでなく、不要なものは常に整理(忘却)し、本当に興味のあるものだけを残すのです。そして芽生えた些末な考えを、恐れることなく話してみたり、異なる分野の専門家(視点の異なる相手)と語らったりすることで、新たな着想につなげる可能性が生まれるといいます。
自分で調べて考える。振り返る。推敲する。
そんな当たり前の過程の大切さは普遍的であり、AI時代の今こそ本当に必要ではないでしょうか。
そんな思いを込めて、この本をおすすめします。


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