「新書」は往々にして、アカデミックな知識の宝庫。
専門外の知らない世界はもちろん、自身の専門・得意分野においても新たな知見が得られます。
そんなわけでタイトルの気になったものは、可能な限り目を通しているのですが。
本書はいわずもがな「バッタ」を主題としており、大の虫嫌いの私は、本来であれば一切かかわりたくないシロモノでした。
しかし著者のネーミング、表紙を飾る人物(おそらく筆者)の謎衣装。
この方は芸人さんなのかしら?…と、何かしら興味をそそられ。
さらに2018年新書大賞も受賞しているとのことで、内容もそれなりのはずよね?
と、恐る恐るページをめくってみることにしたのです。
いや、ブログですね。
実際ブロガーとしてもご活躍の著者。文章が大変お上手だしおもしろい!
非常に独特な感性、さらになかなかの変態性も隠そうとしない潔さは、驚嘆レベルです。
氏はバッタの大軍を求めアフリカへ渡ることになった経緯を「まえがき」で次のように語ります。
子供の頃からの夢「バッタに食べられたい」を叶えるためなのだ。
いや意味不明です。
この時点でドロップアウトか、逆に真相を求めて一気読みか、分かれ道となるかもしれません。
私は幸い、野次馬根性が勝った一気読み派でした。
それにしても、こんなに写真が多い本もめずらしい。
絵本の挿し絵並です。
読書が苦手な方が冊子の厚さに一瞬怯んだとしても、いざページをめくれば読みやすさに後押しされるはずです。
先に新書(全般)を「アカデミック」と称しましたが、年々くだけた内容のものや、学術的とは呼べないような幅広いラインナップも増えてきております。
本作は、実はアカデミックなのにそう感じさせない、見事なタッチの進化系とお見受けしました。
なるほど、新書好きにも支持されたわけです。
私の思惑を外れ、著者はまごうかたなき博士でいらっしゃいました。昆虫博士です。
ファーブル昆虫記に魅了される子どもは、世界中にあまたいることでしょうが(私は一ミリも心惹かれませんでしたが)、著者の前野氏は、その少年の心のまま、迷うことなく門戸の狭き昆虫学者への道を突き進んだ方でいらっしゃいました。
笑い話のようにご苦労を語られていますが、日本の快適で便利な研究所暮らしから離れ、砂漠でのフィールドワーク(野外研究)は過酷を極めたはずです。相当の覚悟をお持ちだったのは言うまでもありません。
それにしてもポスドク(フリーの研究者)の大変さの記述(以前ご紹介した福岡伸一氏『生物と無生物のあいだ』でもその一端が見えましたが)は読むほどに感じ入ります。改めて未来を担う科学者の皆様にリスペクト。
アレルギーを発症してなお揺るがぬ、もはや狂気に満ちたバッタ愛。
その愛に裏打ちされた、研究者魂。そしてピュアな情熱、ストイックな研究姿勢、飽くなき向上心。
加えて、いかんなく発揮される凄まじきコミュニケーション能力に至っては、コミュ障の私には狂気の沙汰としか思えません。
「引き寄せの法則」さながらと言ったら、科学者には失礼かもしれませんが。そのすべてが合わせ技となって、あらゆる道が切りひらかれていきます。
夢は叶わない。努力したからって、みんな大リーガーになれるわけではない。
でもやはり、決してあきらめずに邁進する果てに、叶う夢はあるのです。
それを教えられる一冊かもしれません。
いやしかし、「イナゴ」と「バッタ」に明確な違いがあるとは。
大量発生したバッタを国際的に防御(制御)しようとしている機関があるとは。
そして、その問題解決に赴いたのに、まさか大群に遭遇できないことがあるなんて。
そもそもアフリカはモーリタニアの、公用語がフランス語なのすら知らなかった。
ていうか、モーリタニアってどこだっけ。
年単位の苦節を経て、ついに時は来たれり。
念願叶って、おびただしいバッタの群れにの前に身を投げ出す筆者。
そんな集大成において、新書で噴き出したのは初めてです。
前野氏は「今後必要ない知識」とおっしゃいますが、新たな知識に無駄はありません。
きっと見たことも聞いたこともない世界、そもそも考えたことも思い描いたこともない未知の領域へ、この本は導いてくれるでしょう。
続編の『バッタを倒すぜアフリカで』もお見逃しなく!
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