20年前の著書ながら、センセーショナルに話題をさらったこともありロングベストセラーである本作。
今更取り上げるのもナンセンスかもしれませんが。最近読み直してみて、改めて今でも響くところが十分にあると感じましたので、ご紹介させていただきます。
著書養老氏といえば、医師の母のもとに生まれ東京大学医学部へ進学する最高峰の道をたどりながらも。臨床医としての適正に疑問を感じ、解剖学をご専門にされたお方です。
そのせいか非常にロジカルに「人間」というものをとらえられているように感じられます。
第一章で、薬学部の学生(一般的に言って非常に知的な集団)に妊娠から出産までのドキュメンタリーを見せたときのエピソードがまとめられています。見終えたあと、学生たちの述べた感想は、
男子学生「こんなこと知っている」、女子学生「新しい発見があり勉強になった」。
そう、彼らは知識としては「妊娠・出産」を、人並み以上に知っています。
しかし、それを「実体験する」可能性のある者とない者によって、とらえ方がまったく異なっていた事実がそこにありました。
子を産む経験をすることが物理的にない男子学生にとっては、それは単純に「既知」の「知識」。
一方で今後実際に妊娠・出産をする可能性のある女子学生たちにとっては、それは「未知」の「経験」です。
そこに大きな壁がある。
著者は、このように物事に対して「思考停止」に陥ることを「バカの壁」と命名しているのです。
さらに本書で述べられる「話せばわかる」は大嘘とは、のっけから突いてきます。
いやしかしそうでしょう。同じ「日本語」を解する同士であっても、まったく「言葉が通じない」ことはままある話。
氏は、人が「知りたくないこと」に耳を貸さないことについて「一次方程式の係数がゼロ」と言い切ります。
y=axの係数a=0であれば、xにどんな重要な物事を代入したところで結果y=0です。
逆にこのa=無限大であることも危惧しています。それは絶対主義。
宗教や信仰などのそれです。そうなると、今度はxに何を入れても、y=自分が絶対的に信じるモノになってします。それがテロを生み出してきたとも。
そこまで極端ではなくても、aがマイナスならばどこまでもネガティブに受け止めてします。
そこにあるのは偏見と迫害。
また「個性」に偏執することも、「思い込み」という壁を作り出す危うさを説いています。
このようなあらゆる壁を生み出す具体例をあげ、いかに私たちが自身に「壁」を作ってしまうかを繰り返し問いかけてきます。
先にも上げたように、特に絶対的なものを信じ込む「一元論」がいかにその壁を打ち出してしまうのか。しかし日本には古来二元論的な考えが根付いていたことを、古典『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という名言からひも解いていきます。
少々極端な例もあるかもしれません。しかし、改めて自身に「壁はないか」見つめなおす、きっかけとなる名著であることは間違いないでしょう。
皆様の中に眠るバカの壁を、打ち破ってみませんか。
Book:34「バカの壁」(2003)養老 孟子 著

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