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Book:31「メタボラ」(1997)桐野 夏生 著

テレビドラマ『OUT〜妻たちの犯罪〜』で、平凡な主婦仲間がバラバラ殺人を決行する様に衝撃を受けたのは学生時代でした。
社会人になって、何か面白い本はないかな?と探しているときに、たまたまその原作本『OUT(アウト)』を手にしたところ。ドラマ以上にエグい内容で、登場人物たちのアクの強さに魅了されました。
その後、桐野氏の作品を制覇しましたが。

まあ利己的な登場人物たちが、それはドロドロした人間関係を築いてくれるのが最高で。
さらにそのラストは、周りを出し抜く軽快なものから、意外にさわやかものまで、いずれにせよ読むものを前向きにさせる、爽快さがあるものが多いです(近年の作品には、いくつか救いのない後味の悪いものもあるのですが…)。
特に村野ミロを主役としたハードボイルド・シリーズでは、女性の「したたかさ」をこれでもかと見せつける文面に圧倒されたものです。
しかも筆が早くていらっしゃるのか、1年に1~2冊ペースで新作を出してくださるのも、ファンとしては嬉しい限り。

さてその中から今回おすすめするのは。
沖縄が舞台なのですが、沖縄出身でない氏がかなりリアルに沖縄の背景を取り込んでいるところに、舌を巻いた一冊です。

物語は、何かから必死で逃げている≪僕≫の緊迫した描写から始まります。
≪僕≫は記憶を失っており、自身がなぜ逃げているのかわかりません。
そこで職業訓練所から脱走してきた昭光と出会い、自分がいるのが沖縄の密林だと知るのです。

昭光は彼の異様な雰囲気に警戒はしつつも、彼に「ギンジ」という名を与え、自身も「ジェイク」と名乗り、共に生きることに。

宮古島出身のジェイクは強い訛りの方言を話すものの、整った濃い顔立ちを活かしてホストとして働き始めます。
そんな折、かつての片思いの同級生に再会。恋人に振り回されデリヘルに身をやつした彼女に、逆にいいように利用され転落の一途をたどります。

一方ギンジは、徐々に自分の「正体」が明らかになりますが、気を許した怪しい集団の餌食となりかけます。そして自身の「壮絶な過去」に押しつぶされそうになる中、さらにジェイクへの「思慕」にも悩まされるようになるのです。

それでもなんとかやり直そうと、必死でもがき生きていく二人。
しかし沖縄の長年に及ぶ社会問題。そのほか現代のあらゆる闇に翻弄され、追い詰められていきます。
そんな彼らのロードムービーとも呼べる暗夜行路。
そして物語の行き着く先は。

紹介した理由にもなりますが、この物語は私が氏の著書で、最もラストが好きな作品です。
あくまで私個人の感想で、人によってはあいまいで、気持ちのいい終わり方ではないかもしれません。全著書の中でも特に人気のある作品とは言えません。それでも何かしら吹っ切れた晴れやかさ
私はそこに、強い希望を感じました。

あなたはどう感じるでしょう。ぜひ、二人と旅に出てみてください。

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