映画『ポルターガイスト』や『エルム街の悪夢』を見て震え上がった80年代でしたが。
同時期にゾンビ映画の先駆け『バタリアン』のような、コメディ要素を含んだホラー作品や、ティムバートン監督『ビートルジュース』といったコメディ、さらにポップなお化けたちの『ゴーストバスターズ』がヒットしたり、キョンシーブームをもたらした『幽幻道士』が大流行りしたり。
怖いんだか面白いんだか。怪奇現象や魑魅魍魎が、何かと話題や題材になったものです。
今思えば特に日本では、1999年に世界が滅びるという「ノストラダムスの大予言」に、半ば本気で怯える風潮(特に子どもたちには)があったからでしょうね。ホラーを求めつつ、それを茶化すことで逃げ道を作っていたというか。
さらに90年代にはいっそ「終末もの」のパニックムービーが全盛期となったのは、いっそ怖いもの見たさでしょうか。
そして核戦争も起きず、隕石の衝突もなく、大王の降臨なく無事2000年を迎え。
むしろ就職氷河期という現実に打ちのめされながら社会人になった私としては、本題「エミリー・ローズ」の告知を見た時、今更エクソシストもの⁉と感じたものです。
とはいえ、あまりにその宣伝が怖かったため(悪魔祓いでのけぞる主人公がエグイ)、逆に観ずにはいられませんでした。
ポルターガイスト現象やら悪魔憑きといったものを、ただただ「荒唐無稽」なエンターテインメントものとひとくくりにしていた私。この映画どんだけビビるかしら?と、絶叫マシーンに乗るような心持ちで視聴したのですが。
結果、心から感動し「悪魔祓い」や「エクソシスト」の概念が根底から打ち崩されました。
この映画は1976年ドイツで発生した、実際の事件がモチーフになったものです。
そのためフィクション・ホラー映画でなく、あくまで実話をベースとしたホラー・サスペンスの位置づけです。また舞台の大半が「法廷」である点も、この映画の大きな特徴でしょう。
19歳のエミリー・ローズは真夜中の午前3時、焦げ臭い匂いで目を覚まし、何かに押さえつけられるようにしてもがき苦しみだしました。
イエス・キリストが亡くなったとされる午後3時の対極、悪魔がもっとも活動できる時間と言われています。
その後も、悪魔としか思えない幻覚や幻聴に悩まされるエミリー。医学的治療の限界を感じ、地元の地区神父であるムーア神父に助けを求めることになりました。
そうして悪魔と対決することになった神父。
精神疾患用に処方された薬を絶ち、すべてを悪魔祓いに賭けた結果、彼女は栄養失調で亡くなります。
そこでその過失を問われたはムーア神父は、裁判で裁かれることになりました。
果たして彼女の病状・奇行は、悪霊の仕業なのか。はたまた精神病であったのか。
医療従事者の責任は?神父の正当性は認められるのか?
神父の行った悪魔祓いの様子は、写真や録音で詳細に記録されていました。
そして周りの人々が、様々な視点から彼女の様子を証言していきます。
次第に明らかになる、自身に与えられた役割に真摯に向き合う神父の高潔な姿勢。
神の与えた試練にひたむきに応え、わが身を犠牲にすることをいとわなかったエミリーの信心深さ。
はじめは、カルト的な施術の行き着いた結果だと思いました。そこに情状酌量の余地はないと。
悪魔はいるのか。悪魔の憑依はあるのか。
それこそ「悪魔の証明」です。
しかし問題はそこではありませんでした。彼らが何を思い、何を大切に考えたのか。
そうして、裁判官はそれをどう結論付けるのか。
宗教的価値観が根底にあるとはいえ、とうてい理解できない部分もあります。
それでも、何かを心から「信じる」、疑いなく「敬う」ことの尊さ。
信仰をもたない人間なりに、胸を突かれ、気付かされるものがありました。
恐ろしいシーンもありますが、これはただのホラー映画ではありません。
一人の女性の、人生をかけた戦いと献身の記録です。
私はただ賞賛をもって、この映画の紹介とします。
Movie:11「エミリー・ローズ」(2005)

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