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Movie:19「グエムル-漢江の怪物-」(2006)

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かれこれ20年前から韓国ドラマが日本の女性陣のハートをわしづかみにし、K-POPにいたっては世界中の音楽界をいまだ席巻し続けています。
そもそも韓国が国策として力を入れた映画「シュリ」が、日本で大ヒットしたのは1999年でしたから、韓流ブームは四半世紀にわたって影響力をもってきました。
しかし私自身は、正直「韓国文化」にあまり興味はありませんでした。旅行で訪れたのも2000年前半、友人に誘われるまま一度きりです。(当時苦手だったキムチが、本場で想像の700倍おいしくて、その後大好物になるくらいの影響を受けましたが)

とはいえ韓国のあらゆる底力が周知された頃、この映画「グエムル-漢江の怪物-」の告知CMが衝撃的で、「これはぜひ見なければ!」と思い立ちました。


そのCMの内容は、韓国経済発展象徴としても有名な河川漢江はんがんから「何か」が現れ、河川敷の人間を次々と捕食。そして皆が必死で逃げ惑う中、最後に女学生が父親の前で怪物にさらわれる、というものでした。短時間で見たものを震え上がらせる、うまいCMでしたね。

大抵はフタを開けてみれば、大して怖くないじゃん!と、期待を裏切ってくれるものですが。この映画は、「思ってたホラーとは違う」という裏切り?はあったものの、むしろ期待値を超える作品内容だったと言っていいでしょう。

特撮モノとしては、ものすごく精度が高いとは言えません。
物語の主軸となる「怪物(韓国語でグエムル)」は、割と早い段階で姿を現しますが「まあこんなもんか」という出来です。昔のウルトラマンの怪獣よりはまし、というのは言い過ぎでしょうか。
しかしその登場のさせ方が非常にうまく、見た目のグロさだけでなく、怪物たりえる動き性質の「いやらしさ」というか「ねちっこさ」がリアルに表現されています。
また、スピルバーグ監督『宇宙戦争』で、トム・クルーズたちが宇宙人に見つからないように少しずつ移動しながら隠れる、緊迫のシーンがあるのですが。怪物の巣からの脱出を試みるところが、それを彷彿ほうふつとさせる、見事な切迫感で手に汗握ります。

主人公は、奥さんに先立たれたダメお父ちゃんカンドゥです。金髪がプリン状態がいかにもだらしない父親と、逆にしっかりものとなった娘ヒョンソの、何気ない日常から物語は始まります。
ダメダメな父に呆れつつもも、父の愛に包まれ笑顔が絶えない娘。2人の関係性は、実にほっこりする微笑ましいものです。
最近では『パラサイト 半地下の家族』でも、奥さんに頭のあがらない父親役をされていましたが、それとはまた違った、コメディ色の強い「しょうがないなあ」という種類のダメっぷりを熱演しています。いかつい顔を役柄で使い分ける、その演技力も見ものといえるでしょう。

ヒョンソの祖父やおじ・おばもこぞって彼女をいつくしみむパク一家は「貧しいながら楽しい我が家」の様相を呈しています。家族や親族のつながりが強い韓国ですが、そういうお国柄的なものではなく、万国共通のアットホームな温かさに満ちたものです。

そんなヒョンソが、突如として怪物にさらわれてしまうのです。そう、CMで連れ去られた女学生です。
怪物は白日の下で多くの人々を襲い、国全体を恐怖に陥れましたから、連れ去られた彼女は当然死んだもだと思われていました。実際に葬儀が執り行われ、悲しみに打ちひしがれるパク一家は、さらに「怪物のウイルス感染者」として隔離される憂き目にあうのです。
もはや生きる気力すら失った父カンドゥ。その携帯に、なんとヒョンソから着信が。
その生存確信したカンドゥは、わが子を救うために、命がけで病院を抜け出します

特別な能力があるわけでも、戦う武器や道具があるわけでもない。
それでも我が身を顧みることなく娘の救出に向かうカンドゥ。
怪物誕生の発端ともなった在韓米軍に捕らえられ、どんな目にあわされても屈することなく。
最後まで娘の救出をあきらめませんでした。

その姿は勇敢そのもの。しかし元来が抜けている彼は、うっかりミスから家族を危険にさらすなど、ところどころ滑稽な様子も描かれます。コメディのセンスも光るホラーとユーモアの緩急のつけ方に舌を巻きます。
それでも変わらず根底にあるのは、揺るぎない父親の愛情

ゴジラ同様、化学兵器が元となって生み出された判明する怪物グエムル。その発端となった米軍を描くことで、監督の反米感情も反映されているようです。
そんな社会風刺の要素もありながら、間の抜けた父カンドゥと実はアーチェリーの名手のおば(カンドゥの妹)、ソヒョンとともに怪物にとらえられた孤児の少年のふてくされ具合とソヒョンの機転や思いやり。そんな計算されし尽くされた対比のスパイスを効かせた、一流のヒューマンドラマにも仕上げられています。

風刺をきかせて何かを訴えるようでありながら、この映画は勧善懲悪でもありません。怪物が現れるような非日常だろうと、何の変哲もない日常だろうと、人は日々をあるがままに生きるしかない。
おそらく想像と違う結末に、見終えた後あなたは何を思うでしょうか。

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