児童精神科医である著者が、医療少年院での勤務経験をもとに著した本作。
そこで出会った子どもたちに「円を3等分」するように指示したところ、信じがたい分け方をしました。それが由来のこのタイトルは、かなりキャッチ―ですから内容が気になりますよね。
私も書店で目にして、すぐに購入しました。
もちろん話題のベストセラーとなり、小説化、漫画化、ドラマ化されました。
「少年院」といえば、非行に走った子どもたちが収容される施設として、皆様ご存じのはずです。
「医療少年院」はその中で、身体的・精神的なケガや病気はもちろん、身体障害者や知的障害者、および精神的な情緒不安定者が収容され、専門的な矯正教育が施される機関です。
そこで多くの非行少年に接してきた著者は、彼らの多くが
「自分の犯した罪に向き合う」「被害者の気持ちを考える」
といったことが、そもそも困難である点に着目しています。
明らかな「知的障害(IQ70ないし75未満または以下)」と異なるものの、複雑な問題を思考する能力が低い「境界知能(IQ70以上85未満の状態)」の子どもたちだと思われるためです。
私自身、大学で障害児教育が専門だったため、それらの知識は一応あるのですが(現場には出ていませんので、学生の知りうる授業内容程度ですが)。
往々にして、一般の小・中学校で「健常者」を対象とする教職員たちには、そこに一定数存在しているであろう「境界知能」の子どもたちへの理解が乏しいことは、当時から危惧されていました。
「知的障害」のテキストに「精神薄弱」という酷い名称が使われていたような(先生が、テキストの改定が間に合っていないだけで、今は使わない言葉、と念押しはしていましたが)90年代時点でもです。
彼らは一見「普通」の子どもですので、ほとんどが早期の適切な支援を受けることがありません。
しかし実際には、学習困難(授業が理解できない)、認知の歪みによる被害者意識(目が合っただけで「睨まれた」等)のため、日常生活全般に支障を来し苦しんでいます。
親や教師からは「不真面目」「怠けている」とレッテルを貼られ、同年代の子どもたちとはコミュニケーションがうまく取れずいじめられる。そんなストレスや他者との軋轢から、犯罪の加害者となるケースが散見されるのです。
近年「アスペルガー症候群」や「発達障害」が広く認知され、生きづらさを感じてきた人たちが、大人になってその原因を知るにいたりました。
この「境界知能」についても、自らがそうであることを告白する著名人もいます。
しかし先の二つは知的には高く、ある程度の教育機関にマッチしていた(それゆえの問題もあるようですが)人も少なくないのに対し、後者は確実に知能面に弊害を及ぼし、より早い段階で「学校」という組織から脱落しやすくなります。
そこに家族の理解なり、知識のある支援者なり、何らかの受け皿があればよいのですが。
そうでなければ、社会に適合できず受け入れられず、件の「医療少年院」に行きつく少年・少女が少なからずいるのでしょう。
そんな「加害者」でありながら、社会が生み出した「被害者」を目の当たりにした筆者の思いが、この本には切々とつづられているのです。
これは社会全体が抱える課題です。
多くの方にこの本を通して、知っていただけたら幸いです。
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