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Movie:6「最強のふたり」(2011)

パリの街中を高級車で疾走する、陰鬱いんうつ二人の男性
スピードを出しすぎたのか、巡回中のパトカーに追われます。
パトカーとのカーレースを展開する中、ハンドルを握る黒人男性が「警察を振り切れるか」賭けを申し出ます。そしてそれに呼応した助手席の障害をもつ白人男性が、発作を起こした「フリ」をして病院へ誘導させることに成功。
うまく警察出し抜いたところで、社内にはポップな『September』が流れ出し、ドライバーの黒人男性が茶目っ気たっぷりに歌いだします。

実はこれ、二人のキャラクターや関係性を暗示したものなのですが。
二人は一体何者?といぶかしく感じながら引き込こまれる冒頭です。

これは実話をもとにした、フランスの大ヒット映画です。
パリに住む富豪のフィリップは、頸髄損傷で首から下を動かすことができず、24時間介護が必要な身です。しかし気難しい彼のもとでは、住み込みの介護人は長続きしません

新たに候補者を募集していたところ、面接に来た一人がスラム街出身の黒人男性ドリスでした。
実はドリス、失業保険をもらうために就職活動の実績(不合格の証明書類)が欲しいだけでした。
ところが何を思ったのか、フィリップは周囲の反対を押し切って、介護や看護の資格も経験もないドリスを雇うことにするのです。

ぶっきらぼうで、ともすれば粗暴なふるまいのドリスですが、誰に対しても裏表がない素直な青年でした。重度の障害があり雇用主でもあるフィリップのことも、「ハレモノの障害者」ではなく「対等な一個人」として接する彼に、フィリップは次第に心を開いていきます

そのやりとりはコミカルなのですが、時にブラックに過ぎるところ(チョコレートを食べるドリスに、1つくれというフィリップに対し「これは健常者用だ」とからかうなど)もあります。
また、ドリスの家族の現状を通して人種・貧困といった、フランス社会の闇を感じさせる場面も多々見受けられます。
それでも心を通わせていく二人が、少年の悪ふざけのように楽しく過ごす姿が多く描かれる本作。
全体的には、人の温かさを感じ、ユーモアを楽しめます。

1993年パラグライダーの事故で四肢麻痺になり、数年後に妻をがんで亡くした実在の人物フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴ
その経験と人生への復帰について自身や妻の話と共に、介護人アブデル・ヤスミン・セローとの日常をつづった書籍『Le Second Souffle(第二の呼吸)』が2001年出版されました。
それをもとに2003年ドキュメンタリーが製作され、さらに映画化されたのが本作

実際とは異なる設定もあるものの、二人の絆と友情(映画では1年ほどですが、実際は10年以上共に過ごしたそうです)には素直に胸を打たれます。
映画の最後に、モデルとなったご本人たちの映像が流れますが、その二人の姿がまたなんとも微笑ましいです。

正直、アブデル(映画内では「ドリス」)役の俳優オマール・シーが、ご本人よりかっこよすぎるのですが(すみません…)、それすらご本人がネタにされているのでは?と思しきキャラクターを見て取れます。
ちなみにオマール・シーは、Netflixオリジナルドラマ『ルパン』の主人公を演じていて、これがめたくそかっこいいです(ストーリーも最高です)。ファンになられた方はぜひぜひご視聴ください。

また劇中でフィリップが「今の医学では、私は70歳まで生きられるらしい」と話しているシーンがありましたが、実際にモデルとなったフィリップ氏は2023年、72歳で亡くなられたそうです。
苦難多き人生においても、誰より自由な心をお持ちの方だったと拝察いたします。映画の中の生き生きとした笑顔は、きっと在りし日のお姿そのままなのでしょう。
心より、ご冥福をお祈りいたします。

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