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Book:1「もうひとつのアンパンマン物語」(1995)やなせ たかし 著

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多くの乳幼児が熱狂的に欲し、少し成長すると卒業。なんなら思春期を迎えるとアンチな気持ちをもったりする。
そんな国民的ヒーローアンパンマンを、知らない日本人はまずいないでしょう。その作者のやなせたかし氏のことも、大抵の方はご存じですよね。
私ももちろん存じ上げていましたが、特別な関心はありませんでした。

そうして大学生の時「いつみても波瀾万丈」という大好きなトーク番組を視聴していたところ。やなせ氏ご出演の回がありました。
失礼ながら絵本作家の好々爺こうこうやくらいに思っていた氏の、それこそ波乱に満ちた生い立ちに驚愕。
家族の屈託、壮絶な戦争体験。遅咲きの作家とは存じていましたが、その生きざまを知り。紆余曲折を経て生み出されたであろう、それらの作品を見る目が180度変わったのです。
そしてにわかに強い興味を持ったのがその代表作。アンパンマンとはすわ何者ぞ。
まだネットがさかんでない時代。情報を得たくて、図書館で出会ったのがこの一冊でした。

そもそもアンパンマンって、ヒーローのくせに弱すぎると思いませんか?
それは氏の考える正義悪者をやっつけることではなく、飢えた人にひとかけらのパンを与えることだから。
戦争で弟をなくした氏の思う、本当の「勇気」を体現したのがアンパンマンだったのです。
本書を通して氏の思いに共感するにつれ、私自身のヒーローイズム」の固定観念がすっかり打ち砕かれました

『それいけ!アンパンマン』のアニメは登場キャラクターが最も多いアニメシリーズ」としてギネス世界記録に認定されたくらいですから、その数は言うまでもありません。
しかし本書や、その後手にしたいくつかの著書を読むうちに。適当に量産されたように見えたキャラクターも、実際氏はその一つ一つにわが子のような愛情を注いでいることも知りました。

やなせし氏自ら集長を務めていた雑誌「詩とメルヘン」にも目を通したところ、その優しい世界観に魅了され、しばらく定期購読もさせていただいたのですが。
そこで詳細は覚えていないのですが、ご自身が生み出したキャラクターが「生みの親」に忘れられて悲しんでいる、という内容の詩がありました。
愛する奥様との間には、残念ながらお子さんには恵まれなかったとはいえ。その分、いかにご自身の生み出したものを大切にしていたのか。ゆえにアンパンマンはじめ多くのキャラクターが、掛け値なしに愛されてきたのも納得です。

それにしてもそのご活躍が多岐にわたることにも改めて驚嘆。
童謡としてお馴染みの「手のひらに太陽を」などは、氏が作詞したものです。
ミュージカルなどの制作も自らされており、裏方のプロかと思いきや。そのユーモラスなお人柄で表舞台に立たれることもしばしばあったようです。

興味が高じて、高知のアンパンマンミュージアムにも2回足を運びました。随所にあるオブジェの可愛さには、大人でも悶絶必至です。
そのうえでキャラクター達をモチーフにした絵画の芸術性の高さにも舌を巻きました。
そしてロールパンナちゃんのような「闇を抱えながら自身と戦う」キャラクターの意味に思いをめぐらせることに。

また、高知県東部の南国市と奈半利町間を結ぶ全21駅で、氏が考案した駅キャラクターも存在しています。やなせ夫妻がNHKの朝ドラ題材となることを受け、地元が盛り上がるのもうなずけます。

本書の内容からはだいぶはずれてしまいましたが、読了後どれほど「やなせたかし」という人物や、その生み出したものたちに魅力されたのか。その経緯が伝われば幸いです。
社会人になって、もう一度この本を読み直したくなり購入しようとしたところ、残念ながら絶版になっていることに気が付きました。
その意味で、紹介させていただくのはどうかと思いましたが、やはりこの本との出会いは感慨深いものがあったので、1冊目の本に選ばせていただきました。

氏の著書は多いですが、どの本にもその「正義」の本質を見ることができると思います。
興味を持たれた方は、どれか一冊手に取ってみてください。
単純明快で奥深い、アンパンマンのもう一つの顔を感じられるはずです。

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