多くの乳幼児が熱狂的に欲し、少し成長すると卒業。なんなら思春期を迎えるとアンチな気持ちももったりする。
そんな国民的ヒーロー「アンパンマン」を知らない日本人は、まずいないでしょう。その作者のやなせ氏のことも大抵の方はご存じですよね。
私ももちろん存じ上げていましたが、特別な関心はありませんでした。
私が大学生の時「いつみても波瀾万丈」という大好きなトーク番組があったのですが。そこで、やなせ氏ご出演の回がありました。
失礼ながら、絵本作家の好々爺くらいに思っていた氏の、それこそ波乱に満ちた生い立ちに驚愕。家族の屈託、壮絶な戦争体験。遅咲きの作家とは存じていましたが、その生きざまを知り、紆余曲折を経て生み出された作品を見る目が、180度変わったのです。アンパンマンとはすわ何者ぞ。
にわかに強い興味を抱いたところに、図書館で出会ったのがこの一冊でした。
そもそもアンパンマンって、ヒーローのくせに弱すぎると思いませんか?
それは氏の考える「正義」が悪者をやっつけることではなく、飢えた人にひとかけらのパンを与えることだから。
戦争で弟をなくした氏の思う、本当の「勇気」を体現したのがアンパンマンだったのです。
本書を通して、氏の思いに共感するにつれ、私の「ヒーローイズム」の固定観念がすっかり打ち砕かれました。
そもそも『それいけ!アンパンマン』は「登場キャラクターが最も多いアニメシリーズ」としてギネス世界記録に認定されたくらいですから、その数は言うまでもありません。しかし本書や、その後手にしたいくつかの著書を読むうちに、適当に量産されたように見えたキャラクターも、実際氏は、その一つ一つにわが子のような愛情を注いでいることも知りました。
同時にそのユーモラスなお人柄に関心をもち、そのご活躍が多岐にわたることにも改めて驚嘆いたしました。作詞家としての顔もあり「手のひらに太陽を」などは童謡でお馴染みですね。
やなせし氏自ら集長を務めていた雑誌「詩とメルヘン」は、その優しい世界観にも感銘を受け、しばらく定期購読もさせていただいたくらいなのですが。
そこで詳細は覚えていないのですが、ご自身が生み出したキャラクターが「生みの親」に忘れられて悲しんでいる、という内容の詩がありました。愛する奥様との間に、残念ながらお子さんにはめぐまれなかったとしても、繰り返しにはなりますが、いかにご自身の生み出したものを愛していたか。ゆえに掛け値なく愛されてきたか、よくわかります。
興味が高じて、高知のアンパンマンミュージアムにも2回足を運びました。随所にあるオブジェの可愛さには、ただ悶絶です。そのうえでキャラクター達をモチーフにした絵画の芸術性には舌を巻きました。そしてロールパンナちゃんのような「闇を抱えながら自身と戦う」キャラクターの意味に思いをめぐらせることに。
また、高知県東部の南国市と奈半利町間を結ぶ全21駅で、氏が考案した駅キャラクターも存在しています。やなせ夫妻がNHKの朝ドラ題材となることを受け、地元が盛り上がるのもうなずけます。
本書の内容からはだいぶはずれてしまいましたが、読了後「やなせたかし」という人物に惹かれ、生み出したものたちに魅力された経緯が伝われば幸いです。
社会人になって、もう一度この本を読み直したくなり購入しようとしたところ、残念ながら絶版になっていることに気が付きました。
その意味で、紹介させていただくのはどうかと思いましたが、やはりこの本との出会いは感慨深いものがあったので、1冊目の本に選ばせていただきました。
氏の著書は多いですが、どの本にもその「正義」の本質を見ることができると思います。
興味を持たれた方は、どれか一冊手に取ってみてください。
単純明快で奥深い、アンパンマンのもう一つの顔を感じられるはずです。
Book:1「もうひとつのアンパンマン物語」(1995)やなせ たかし 著

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