大学生の時に映画館で衝撃を受け、日を置かず二回目を観に行った、思い入れのある作品です。
貧乏学生にとって映画鑑賞はゼイタク品。
そんな中で、同じ映画を二度も鑑賞したのは初めてのことでした。
ちなみに、二回目を観たのが最終上映日だったので、上映が続いていたら確実に三度目もあったと思います。
ビートたけしといえば、子どもの頃から大好きな芸人の一人です。
ドリフターズとひょうきん族出演者は、我々の世代にとって神。
舌鋒鋭いたけしの芸風は「お笑い芸人って実は賢いんだな」と当時の子どもたちを感嘆させたものです。
そんな最高に「おもしろい」たけしの、初監督作品『その男、凶暴につき』(1989)を見たときの驚愕。その闇の部分を見たようで恐怖しかありませんでした。
そもそも不謹慎ネタで世に歯向かう姿は、あるいは人生そのものをどうでもよいと感じているのでは?と、子ども心にも不安を感じさせるものでした。
そんな私はファンゆえに、死を感じさせるたけし監督作品は避けていましたし、役者として映画でシニカルな表情を見せるのも好んでいませんでした。
この人は死に急いでいる。子ども目線で大好きな大人にそう感じるのは、辛いものです。
そして1994年のバイク事故。ついにその日が来た、と覚悟しました。
幸い、彼は命を取り留めました。
辛くも復帰した姿は、痛々しいながらも憑き物が落ちたように見えました。
あんなにその死に怯えていながら、ファンの勝手ですが。
生きていたことに心から安堵しつつ、この事故を経て独特の魅力も損なわれるのでは、と危惧したことは否めません。
しかしたけし節は健在でした。そして復帰後初の監督作品『キッズ・リターン』(1996)の「再生」を描いた世界観で、ああこの人、破滅願望なくなった!と解釈して勝手に安心したものです。
そして警戒を解いたところで、次作「HANA-BI」で度肝を抜かれるのです。
極限まで削られたセリフ。淡々とした登場人物の姿。
久石譲の織り成す旋律とキタノブルーの映像美の完璧なまでの融合。
その芸術センスは圧巻で、主人公が後戻りのできない道へ突き進んでいく悲壮感をも、ある種の美しさへと昇華していくのです。
言うまでもなくビデオ化されてからも購入して、何度も見直しました。
妻を演じる岸本加世子さんとの静かな夫婦愛。同僚役の大杉漣さんの苦悩と再生。
そこに花を添えるのは、たけし自身が描いた絵画の数々。
底知れない才能の共演と、それらの奇跡的な調和。
その後の作品に関しては、エンタメに特化した作品の完成度は絶賛(特に『座頭市』『アウトレイジ』は傑出)ながら、これほどの静的な荒々しさには及びませんし。
それ以外の「好きに遊んでるな~」的な自由な作品は、いっそ安心して見れるものの、ファンから見ても芸術的観点からはいただけない。
そんなわけで私にとって、この「HANA-BI」は北野武の感性が極限まで研ぎ澄まされた、唯一無二の傑作だと感じています。
内容についてこれ以上は語りません。
一人でも多くの方に、ただ一度見ていただきたい。それだけです。
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