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Movie:16「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022)

日本のファンからの通称は「エブエブ」。
なにもかも、どこででも、同時に」を意味するこのタイトル。
マルチタスク揶揄やゆする意味合いでもあるようです。
アジア人のおばさん」が「スーパーヒーロー」になる映画として話題をさらいました。
前評判から、映画館に見に行こうと思いつつタイミングを逃し。ヘビーユーズのネットフリックスにあがってきたので、喜び勇んで視聴。

なるほど、これはすごいわ。度肝を抜かれた作品でした。
はばかりながらワタクシ。ベーシックな映画はそれなりに、ちょいちょいマニアックなものも見てきた方だと思います。そのうえで、これは「やってくれた」映画です。
奇をてらった作品だと、当初うがった目で見ておりました。とんでもない。映画『マルコビッチの穴』を凌駕りょうがするシュールの中に、これでもか!とあらゆる世界観をぶち込んだ、とんだ名作でした。

ボンドガールでもあったミシェル・ヨー扮するエブリンは、アメリカでコインランドリーを営む平凡な中国人女性。しかも経営は苦しく、破産寸前でした。
税務署からの呼び出しに夫婦で応じるも、打開策はなし。

そんな彼女の目の前に、夫に乗り移った「別の宇宙の夫」が現れます。
夫ウェイモンド役のキー・ホイ・クァン、最初見たときには「ジャッキーチェン!?」かと。
それにしては若いか…でもなんか知っている…と思ったら、我々の世代にはお馴染み。映画『グーニーズ』の子役の一人じゃないですか!知った瞬間、すぐ重なりました。うん、まんまっちゃまんま。
ちなみに、この作品は当初、ジャッキー主演で構想されたものだったとか。
あながち間違っていなかった。

「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」
という「夫」に促され、耳にかけた装置をもとに、マルチバース(並行世界)の自分へ意識を飛ばすエブリン。
彼女はウェイモンドと駆け落ちの末に家族となり、一人娘をもうけました。
しかし彼女の中に、どこかで常に「あの時彼と一緒にならなければ」という後悔の念があったのです。
実はその時点から、ウェイモンドと「別れた自分」パラレルワールドが発生していました。

その人生において、彼女はカンフーの達人かつ華やかな女優として、大成功を収めています。
しがないコインランドリー経営で四苦八苦しする現状とは大違い。

別の宇宙から来た夫、に真実を告げられたエブリン。そしてその税務署内で、突如として何者かに襲われた彼女は、そんな「もう一人の」自分の能力にアクセスし急場をしのぎます。
しかし実は、彼女の「別の人生」はそれだけではありませんでした。
一流料理人京劇歌手交通案内員SM女王の清掃員両手がソーセージに進化した世界の住人…。
多岐にわたるというか、そのバラエティは変態の域。
それらの「自分」にアクセスすることたびに、その技術・能力・記憶すら手にすることが可能に。
そうして迫りくる敵と戦っていきます。
しかしそのアクセスのきっかけは「変わった」行動をとること。
始めは「靴を左右逆に履く」レベルでしたが、次第にエスカレート。「お漏らしをする」などもまだまだ序の口。
彼女に指令を与える組織、および敵の団体たちも、マルチユニバースから能力をインストールしますが、そこで各々ヤバいアクセス方法をとっていきます。

そんないっちゃってる場面にドビュッシーの「月の光」が花を添え、ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァンの確かなアクションが物語を盛り上げます。
エヴリンの父「ゴンゴン(「公公」広東語で母方の祖父の意味)」もキーパーソン。
「成功を逃した娘エヴリン」を認めなかった、ゴンゴンと彼女の確執もあらわに。

しかし父が自分を受け入れていなかったように、エブリンも同性愛の娘ジョイを認めていませんでした。母親につらく当たられていたことで、ジョイも屈託を抱えていたのです。そんなジョイには、実はマルチバースを自在に行き来するドッペルゲンガー(別バージョンのジョイ)がおり、それこそが物語最大の謎を解くカギでもあったのです。

そんな3世代親子根深い闇が投影されるこの作品。
そもそもエブリンはADHD注意欠陥性障害でもあり、生きづらさをかかえてきました。それを表す描写もあちこちに見て取れます。その矛先はただ優しい夫に向かい、彼に閉塞感へいそくかんを感じてもいたのです。

そんな中、すべての世界を無にする「ベーグル」(食べ物のあのベーグルです)の存在が明らかに…。

いやもうこの世界観。最高すぎる。
人類が誕生しきれなかった宇宙の、ただの石としてのエヴリンとジョイもめっちゃ好き。
あらゆる世界のドッペルゲンガーの、ポップな七変化もよすぎる。
「ギョロ目シール」の扱いも、センスしかない。

うーん、説明が難しい。
というか見ましょう。ぜひ見てください。
正直私は意味不明すぎて3回見直しました。
混乱したからでもありましたが、単純におもしろくて見返したのもあります。
エヴリン、最高。映画祭で意地悪されてもなお、あなたが優勝です。
文句なしにお勧め、ほかに類を見ない傑作です!

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