日本のファンからの通称は「エブエブ」。
「なにもかも、どこででも、同時に」を意味するこのタイトル。
マルチタスクを揶揄する意味合いでもあるようです。
アジア人のおばさんが「スーパーヒーロー」になる映画として話題をさらいました。
前評判から、映画館に見に行こうと思いつつタイミングを逃し。ヘビーユーズのネットフリックスにあがってきたので、喜び勇んで視聴。
なるほど、これはすごいわ。度肝を抜かれた作品でした。
はばかりながらワタクシ。ベーシックな映画はそれなりに、ちょいちょいマニアックなものも見てきた方だと思います。そのうえで、これは「やってくれた」映画でした。
目の付け所は面白いけど物珍しいだけの作品かもなあと、当初うがった目で見ておりました。
とんでもない。映画『マルコビッチの穴』を凌駕するシュールの中に、これでもか!とあらゆる世界観をぶち込んだ、とんだ名作でございました。
ボンドガールでもあったミシェル・ヨー扮するエブリンは、アメリカでコインランドリーを営む平凡な中国人女性。しかも経営は苦しく、破産寸前でした。
税務署からの呼び出しに夫婦で応じるも、打開策はなし。
そんな彼女の目の前に、夫に乗り移った「別の宇宙の夫」が現れます。
夫ウェイモンド役のキー・ホイ・クァン、最初見たときには「ジャッキーチェン!?」かと。
それにしては若いか…でもなんか知っている…と思ったら、我々の世代にはお馴染み。映画『グーニーズ』の子役の一人じゃないですか!知った瞬間、すぐに重なりました。小学校の同級生に久しぶりに会ったようで懐かし嬉し~。
ちなみに、この作品は当初ジャッキー主演で構想されたものだったとか。
あながち間違っていなかった。
「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」
という「夫」に促され、耳にかけた装置をもとにマルチバース(並行世界)の自分へ意識を飛ばすエブリン。
彼女はウェイモンドと駆け落ちの末に家族となり、一人娘ジョイをもうけました。
しかし彼女の中に、どこかで「あの時彼と一緒にならなければ」という後悔の念があったのです。
実はその時点から、「ウェイモンドと別れた」エブリンのパラレルワールドが発生していました。
その人生において、彼女はカンフーの達人かつ華やかな女優として、大成功を収めています。
しがないコインランドリー経営で四苦八苦しする現状とは大違い。
別の宇宙から来た夫、に真実を告げられたエブリン。そしてその税務署内で、突如として何者かに襲われた彼女は、そんな「もう一人の」自分の能力にアクセスし急場をしのぎます。
しかし実は、彼女の「別の人生」はそれだけではありませんでした。
一流料理人、京劇歌手、交通案内員、SM女王の清掃員、両手がソーセージに進化した世界の住人…。指がソーセージの世界で、まさかの税務所職員との関係も!
多岐にわたるとか通り越して、そのバラエティはもはや変態の域。
それらの「自分」にアクセスすることたびに、その技術・能力・記憶すら手にすることが可能に。
そうして迫りくる敵と戦っていきます。
しかしそのアクセスのきっかけは「変わった」行動をとること。
始めは「靴を左右逆に履く」「変なダンスをする」レベルでしたが、「お漏らしをする」など次第にエスカレート。
彼女に指令を与える組織や敵の団体たちも、マルチユニバースから能力をインストールしますが、各々ヤバいアクセス方法をとっていきます。
そんないっちゃってる場面にドビュッシーの「月の光」が奇妙な美しさをもたらし、ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァンの確かなアクションが花を添えます。
エヴリンの父ゴンゴン(「公公」広東語で母方の祖父の意味)もキーパーソン。
「成功を逃した娘」を認めなかった、ゴンゴンと彼女の確執もあらわに。
しかし父が自分を受け入れていなかったように、エブリンも同性愛の娘ジョイを認めていませんでした。母親につらく当たられていたことで、ジョイも屈託を抱えていたのです。
そんなジョイには、実はマルチバースを自在に行き来するドッペルゲンガー(別バージョンのジョイ)がおり、それこそが物語最大の謎を解くカギでもあったのです。
そんな3世代親子の根深い闇が投影されるこの作品。
そもそもエブリンはADHD注意欠陥性障害でもあり、生きづらさをかかえてきました。それを表す描写もあちこちに見て取れます。
その矛先は穏やかで優しい夫に向かい、彼に閉塞感を感じてもいたのです。
そんな中、すべての世界を無にする「ベーグル」の存在が明らかに…。
食べ物の、あのベーグルですよ?いやもうこの世界観。最高すぎる。
人類が誕生しきれなかった宇宙の、ただの石としてのエヴリンとジョイがめっちゃ好き。謎の人形だった世界もしびれる。あらゆる世界のドッペルゲンガーのポップな七変化もよすぎる。
ウェイモンドがエブリンをあきれさせたギョロ目シールが、まさかの使い方をされるのがセンスしかない。
うーん、説明が難しい。
というか見ましょう。ぜひ見てください。
正直私は意味不明すぎて3回見直しました。
混乱したからでもありましたが、単純におもしろくて見返したのもあります。
エヴリン、最高。映画祭で意地悪されてもなお、あなたが優勝です。
文句なしにお勧め、ほかに類を見ない傑作です!
Movie:16「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(2022)
映画この記事は約4分で読めます。
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