皆さんは「カジマヤー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
一言でいえば「97歳の年祝い」です。
沖縄では干支に当る年にお祝い「トゥシビー」を行います。数え年で13、25、37、49、61、73、85、そして97歳ですね。
日本で一般的な長寿祝いの「還暦」がかぶる感じです。
さすがに109歳や、まして大還暦(還暦の2倍)121歳までは想定外なのでしょう。
97歳を最後のトゥシビーとして、盛大に祝います。それが風車祭。
トゥシビーは本来厄年ですが60歳以降は「慶事」ととらえられ、特にカジマヤーは集落あげての大イベント扱い。オープンカーにたくさんの風車を飾り付け、齢97のおじーおばーが大名行列を行います。
97にちなんで、毎年旧暦の9月7日がその日で、ローカルニュースでも必ず取り上げられます。
この物語の中心人物、仲村渠フジ(沖縄ではそこまで珍しくない苗字で、みんな読めますが、大体書けません)は、自身のカジマヤーを心待ちにしている、長生きに異常な執着心を燃やす豪傑おばぁです。
その目的を果たすためには他人を不幸にすることもいとわない、というよりそもそも他人の不幸が大好物。さらに娘のトミに小言を言うのが健康の秘訣と公言する、自分勝手なクソばばぁです。
そんな母親が反面教師なのか、トミは物知りで穏やかなおばぁ(娘もすでにおばぁ!)。
近所の高校生、比嘉武志に慕われ尊敬される存在です。
トミにとってオアシス的存在のこの武志。
ところがフジにとっては自分の娯楽のコマくらいの位置づけで、常にからかわれひどい目にあわされます。
そもそも長寿のために刺激を求めるフジおばぁ。
その策略で、武志は妖怪火を目撃してマブイを落としてしまうはめに。
これまた沖縄では周知の「マブイ」ですが、まあ平たく言えば「魂」に近いもの。
このマブイは一人につき7つもあるためか、驚いたり不幸なことがあると、ポロっと体から1つ離れてしまうことがしばしば。
抜け落ちたマブイは体内に込めるマブイグミ(魂込め)をしないと、病気や不運が続くと言われています。それどころか放置していると最後には命を落としてしまうことに。
そう、武志も早急に落としたマブイを探さなければならないのです。
しかし妖怪火の正体であったのは、マブイの身でさまよい続ける美少女ピシャーマでした。
しかもお化けのくせに、彼女は全盲。
武志はなんと、このか弱く可憐な幽霊に一目ぼれ。
自身の置かれた立場より、彼女を助けることを優先するのです。
ピシャーマにかけられた呪いを解き、予見された恐ろしい未来を変えるべく奮闘する武志。
そんな男くさい武志に思いを寄せる、幼馴染の女子とメスの妖怪豚による画策の数々。
さらに様々な人物(妖怪)が入り乱れ、物語は交錯、壮大な結末へと向かっていきます。
マジムン(妖怪)はいちいち個性強めだし、沖縄の魔法の言葉「だからよー」ですべては片づけられるし、おばー始め女性陣は最強だし、役に立つのか立たないのかユタも交じってマブイ探し…とにかく沖縄ネタ満載。
そのセンスが最高すぎるのですが、まあかなり内輪ネタと言えなくも。
少年漫画的な下ネタもなかなかのもの。
おそらく多くの日本人には謎のくだりもありつつも、雰囲気で楽しめると思います。
作者は石垣ご出身で、自身もマブイを落としたことがあるという、生粋のネイティブ。
氏の作品の中では、仲間由紀恵さん主演でドラマ化された『テンペスト』などが有名でしょうか。
沖縄色強めの作品を多く手掛けていらっしゃいますが、どれをとっても笑いの中に沖縄へのリスペクトを感じます。
しかしコメディ的要素強めの中で、登場人物の過去やそれを踏まえた決意などがすごく切ないのも、あるいは沖縄的。この作品も例外ではありません。
美しく誇り高きピシャーマ。純粋に恋に生きる武志。したたかを通り越して悪魔のようなフジおばあ。
はたしてそれぞれの行き着く先は。
うちなーんちゅは必読で。
大和んちゅ(および日本語を解するすべての人類)の皆様におきましては、沖縄に興味のある方も特にない方も、いまだ普通に息づく古からの琉球カルチャーを体感してみませんか。
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