通常、人気ドラマであってもシーズンを追うごとに、マンネリ化などの理由で視聴者離れが起きたり、視聴者の意図に展開が沿わず、人気(視聴率)が下がっていくことが多いものですが。
この作品は批評サイトMetacriticで、シーズン1の100点満点中74点から、シーズン2で85点、シーズン3で89点、シーズン4は96点とうなぎ上りに評価が上昇。
最終シーズン5は100点満点中99点のスコアを得ることで「歴代で最も高く評価されたテレビシリーズ」としてギネス世界記録に認定もされました。
正直、その高い評価を前もって知らなければ、シーズン1でドロップアウトしたかもしれません
物語冒頭、意識のない人間たちをのせたトレーラーを必死に運転する中年男。
やおら停車させると、まろび出るように荒野に降り立ちブリーフ姿で銃を構えます。
のっけからブリーフ一丁(しかも上着は着ている)のおっさんですよ?ストーリーに引き込まれるというより、ただ仰天してしまいました。
そしてイントロの後、場面は転換。先ほどのおっさん主人公ウォルター・ホワイトの日常、家族たちとのアットホームな様子が映し出されます。
ウォルターは実に冴えない、高校の化学教師です。
異常に自己肯定感が低く、そのせいでしょうか。生徒からも全く尊敬されていません。
11歳年下の美人妻スカイラーが唯一の自慢ですが、脳性麻痺の一人息子ウォルターJr.や、家のローン、思いがけず授かった二人目の出産のため、資金繰りに頭を悩ませています。
妻の妹マリーとその夫ハンクとは、非常に近しい間柄。子どものいないふたりは、ジュニアのこともとてもかわいがっており、ともに食卓を囲む様子はホームドラマのよう。しかし麻薬捜査官で「タフガイ」の権化のようなハンクは、インテリでひ弱なウォルターを見下すような振る舞いをしています。
常に卑屈で自分をさいなみつつも、教職に加えて洗車場でのアルバイトをこなし、なんとか生活を立て直そうと奮闘するウォルター。
そんな折、彼はステージIIIの肺癌で余命2~3年と宣告され愕然とします。
その医療費の捻出もあり、スカイラーも必死で働きますが、焼け石に水。
主人公の悲壮感は、同情を買うというより、いっそ目をそむけたくなる種類のものです。
元来彼は、非常に優秀な化学博士でした。
大学院の研究チームがノーベル賞を授与され、彼自身その功績を認められた過去があり、学友と3人で新進気鋭の会社を起こすまでになりました。
しかし人間関係や彼自身の屈託から、共同経営権を売り会社を去ります。
その後残った二人は大成功をおさめ富豪夫婦に。自ら去ったウォルターですが、彼らに裏切られのけ者にされたという被害妄想に似た思いをもっており、逆恨みのような感情を抱いています。
あとのないウォルターは、ついに正攻法を諦めます。
彼のもつ卓越した知識と繊細な技術を駆使して、最高純度のメタンフェタミン(通称メス)、つまり麻薬の製造に手をかけたのです。
そしてそれらを売りさばくため、元教え子の売人ジェシーと手を組むことにしました。
彼の作り出すメスは、その独特の見た目からブルーメスと呼ばれたちまち人気を博します。
しかし、そもそも一般市民とただの不良の二人組。マフィアや、はてはメキシコの麻薬カルテルなどに搾取され、何度も危険な目に合うことに。
いや、とにかく感情移入できないです。主人公にちっとも好感をもてない。
確かにただの小市民でしかなかった(そしてその後もそうとしかみえない)彼が、実はものすごい頭脳と職人並みの技を持っていて、最高の麻薬を作り上げ「ハイゼンベルク」という通り名で裏社会でのしあがっていく。その過程は痛快だし、次第に財を得て一目置かれる存在になっていく様は圧巻ですが。
それなのにずっと、その卑屈さは消えず。そのせいか、自己保身のためならどんな悪に手を染めようが罪悪感などまるで感じない姿は、視聴者に嫌悪感すら抱かせます。
劣等生だったジェシーに対して、ウォルターには捨て駒でしかなかったものの、次第に絆が芽生えていきます。しかしおバカながら良心の残るジェシーのことも、ウォルターは自分の都合のいいように何度もだまします。それでもジェシーに対しては、なぜか愛着を示すウォルター。しかし彼にも確実に信用を失い、憎まれる羽目になります。
いずれにせよ物語はどんどん壮大に広がります。ウォルターは始めこそごまかし、抜け目なく逃げ切ろうとしたのものの。物語は彼を窮地に追い込みまくり、というか自分自身で進んで抜き差しならない状況に陥っていきますから、その予想もつかない展開に一気見必至です。
冷淡であくどいキャラクター、意外な優しさを見せる面々。それぞれの思惑が交錯し、もとは善良な家族たちも次第に荒んでいく。そしてかかわった人々はいわばウォルターの巻き添えにより、一様に転落の一途をたどる羽目に。
“to break bad”は「したいこと(悪行)をする、道を踏み外す」という意味らしいので、それが進行形となったこのタイトルのもつ意味合いは「段々悪くなっていく」といったところでしょうか。
家族との関係も一度は破綻、なんとかやり直すも、もはやスカイラーは「悪妻」レベルに変容するなど、とにかくハッピーエンドの兆しが見えません。
ちなみにスカイラー役の女優さんは、プライベートでドラマのファンに罵倒されたこともあったそうですから、このドラマの反響の大きさと演者たちの熱演ぶりもうかがえます。
そして最終話。途方に暮れるスカイラーからなじられるウォルター。
しかしそこで彼が吐露した、犯罪に手を染めた真意が、実に明確でいっそ爽快なのです。
その一言で、それまでのすべての彼の行いに納得がいきました。
あらゆる著名人が絶賛する本作ですが、全話見終えればうなずくしかない。あらゆる意味で、最後まで筋の通った傑作です。
好き嫌いはあると思いますが、海外ドラマファンは一度見る価値がある作品です。


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