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Book:14「彼女について」(2008)よしもと ばなな 著

「よしもとばなな」の作品に初めて出会ったのは中学生の頃。
一世を風靡ふうびした『キッチン』を手にして、その芸術的感性あふれる美しい文体に感嘆したものです。
そこから全作品拝読し、20代中ごろまでは新作が出るたびに手にしてきました。

それにしても高校3年生の時、現役で受験したセンター試験(1996年)に『TUGUMI』が出題された時には、びっくりしすぎて試験中に声が出るところでした。
こんなポップな作品が、よもや大学入試の題材になるとは…(ちなみに私は現代文満点ではありましたが)。その3年前の高校入試でも『キッチン』が出題された気がするので(古すぎて過去問がヒットしないので不確かですが)、意外と題材として扱いのでしょうか。

ただ大人になるにつれ「小娘の好む作品」に感じてしまい(大変失礼なことです、私が粋がっていたのでしょう)、30代以降はよしもとばなな作品から遠ざかっておりました。
そんなわけで社会人になって久しぶりに、何気なく手にした氏の作品がこの「彼女について」でした。相変わらず文章も言葉選びもキレイだな~と、改めてその文才とセンスには舌を巻きつつ。
ああそうそう、主人公の女性の、なんか「私いい女」感が鼻につくのよね~と、嫌いな要素も思い出しておりました。
それにしてもやはり、その豊かな感受性に満ちた世界観は「大人の目線」でも圧巻でした。

彼女の作品は、甘やかさの中に、常にひっそりとした寂しさが漂っています。そこがはかなげで美しい。この作品は特にその傾向がより色濃く出ているように感じました。
私は個人的にスピリチュアルな物事・事柄にとても興味があるのですが。
ホメオパシーに傾倒しているという筆者の「信仰」に近いものは、正直若干苦手です。
この物語は、そのあたりが背景にだいぶちらつくのが気にはなりますが…それでも嫌悪感を抱かせないところはさすがです。小説家としての才能がなせる業でしょう。

だいぶ悪口をはさんでおりますが、この作品は、やはり彼女は卓越した文筆家だった!と再認識させる一冊でした。その後続けざまに、当時出版済みの作品をコンプリートしたくらいですので。
あえて内容については触れませんが、「彼女について」は他の作品とは少し異質だとだけ言っておきましょう。
彼女のファンはもちろん(そもそもすでに読まれている方がほとんどのはずですが)。私としてははじめて、もしくは昔2~3冊読んだことがあるくらいの方にこそ、よしもとワールドの魅力を存分に楽しめる物語としておすすめしたいと思います。
その美しい語り口に、そっと耳を傾けてください。

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