原題は”3Idiots(3人のバカ)”(日本の映画祭では『3バカに乾杯! 』)ですが、邦題では主人公の口癖“all is well(すべてうまくいく)”が使われています。
個人的にはこっちが好きですが、映画内で頻繁に”idiot(おバカ)!“という単語が登場するので、物語に沿っているのは3バカのほうかな?と思わなくも。
いずれにせよスピルバーク監督はじめとする多くの著名人たちから高評価を受けた、大ヒット作になります。日本では世界的に話題になって数年後の2013年公開でしたが、すぐさまランキングトップに躍り出ました。
ちなみに『ムトゥ 踊るマハラジャ』はじめとするボリウッド映画ブームに乗り遅れた(正直あまり興味のなかった)私にとっては、これが初インドムービーとなりました。
なるほど、こちらはミュージカルではないけれど、歌と踊りがマストでおもしろい。
久しぶりに見直してみると、若干わざとらしい効果音や大げさな表情が、昭和ドラマ臭(日本人的表現でいえば)で鼻につくところはありましたが、まあ演出の一環と受け止めましょう。
陽気でエネルギッシュなインド人こ国民性をベースにしながら、カースト(貧困)の闇を抱えたインドの姿が浮き彫りになっているところこそが、この作品の本質ですから。
法律で規制されて久しいとはいえ、カースト制度の根深さがもたらす数々の問題や事件は、日本でも報道されうかがい知れるところです。
私はこの映画を見た翌2014年にインドを旅する機会がありました。そこで学校に行かず働いている(さらには物乞いしている)たくさんの子どもたちを実際目にして、ただただ驚愕したものです。確実にカースト下位であろうこの子たちが、この生活から抜け出すのは難しいであろうと実感させられました。
ですから昔からよく言われる、このことは事実でしょう。
カーストから抜け出すには、エンジニアになるしかない。
この映画にはその現実がリアルに映し出されていました。
物語冒頭、裕福なインド人男性ファルハーンが、離陸直前の飛行機内で携帯から何かの知らせを受けています。慌てて引き返すために、急病人のふりをして飛行機から降りることに。
うーん、コメディタッチに目くじら立てるのも野暮ですが、この非常識な展開は個人的にはかなり嫌いてす。ドラマ『フレンズ』でも最終話、登場人物の勝手で飛行機を止める所業にイラっとして、最後にドラマの印象が最悪になったのを思い出しました。
まあそれは一旦脇においといて。
飛行機を降り立った彼は、学生時代からの親友ラージューに電話をかけ、すぐに出発準備をするように伝えます。ファルハーンが受けた知らせは、卒業以来行方不明だった、もう一人の学生仲間ランチョーが見つかった、というものでした。
物語はランチョーの元に向かう彼らの様子と、学生時代の回顧が交互に映し出されます。
彼らの通った大学は、インド屈指の工科大学。
「40万の志願者から合格者200人」
という学長のセリフからも、難関大であることがうかがえます。数字はさすがに大げさかもしれませんが、人口の多いインドですから、何もかも、まして良い条件の事柄はすべからく、とてつもない高倍率になるのは事実でしょう。
そんな精鋭を集めた「エンジニア育成校」ですから、皆自身の矜持とともに家族の期待を背負っています。
たとえばファルハーンは中流階級の出身。
といっても、日本で想定する「中流」よりは経済的に厳しいと思ってください。
彼が生まれた瞬間「この子はエンジニアにする」と父が宣言し、家族一丸となって教育に資金を費やしてきました。
当然、エンジニアとして成功した暁には、家族にキャッシュバックされる前提の投資です。
しかし彼にはもともと別の夢があり、心から勉学に励むことができません。
一方ラージューの母はもと教師ですが、父親は病気のため寝たきり。
家には嫁き遅れの姉(28歳!)がおり、その日暮らしの毎日という貧困家庭です。しかしむしろ、これがインドの平均的なレベルでしょう。
母が必死で進学させてくれたのですから、なんとしても成功しなければなりません。そんな彼は、不安のあまり毎日神棚に祈りをささげ、幸運グッズにまみれる状況です。
そんな二人が大学入学後出会ったのが、確固たる「自分」を持つランチョーでした。
目上の人間におもねることなく、自身の「信念」に合わなければ平気で教授や学長に異を唱える。そんなひょうひょうとした態度ながらも成績は常にトップ。しかも遊び心があって、いたずら好き。
そんなランチョーと意気投合したファルハーンとラージューは、いつしか悪ふざけを繰り返す3人組(3バカ)となります。
しかし往々にしてやりすぎてしまい、特に成績下位の二人は学内で危うい立場になっていきます。
ん-、ちょっとランチョー、見ていてシャレにならない部分も多いんですよね。いくら首席でも、普通に退学レベルの逆らい方です。
まあシビアなインドの競争社会ゆえ、あるいは実力さえあれば何でも許される、という風潮があるのかもしれませんが。
そして頭でっかちで万年2位の屈辱にあえぐガリ勉チャトルは、そんなランチョーを目の敵と言わんばかりにライバル視する嫌な奴です。しかし逆に、3バカ(主導はランチョー)の手ひどいいたずらのターゲットにされてしまいます。しかしそのやり方が、いやこれイジメでしょ?の域で少々胸糞悪い。
インドジョークなのかもしれませんが⋯。
そんな無双状態のランチョーも、独裁者的な学長の娘と恋に落ちる漫画のような展開の中で、彼女に対してはウブでかわいらしい一面も見せます。で、これぞボリウッド。ぶっこまれてくる恋の歌とダンスが楽しいのです。
しかしなかなか進展することができない、その理由は最後に明かされます。
しかしそんな恋物語とともに、深刻な場面もみられるこの作品。
たとえば将来有望な学生と違って、学内には下働きの少年「ミリ坊や」が当たり前のようにいたり、成績不振で追い込まれた学生が自殺し、インドでの自殺率の高さがクローズアップされたり。
しかし全体的にはポップで、深刻さもはねのけるキャラクターたちの魅力が存分に発揮され、2時間超とは思えないくらいあっという間に見終えてしまいます。
ボリウッド初心者には、導入としてもおすすめの一作。
日本人との感覚の相違も楽しみつつ、底力あるインド社会を垣間見てみませんか。
コメント