もとは報道カメラマンである筆者。
取材の一環で、タイの僧侶の托鉢に同行したときのこと。ある老僧に無視黙殺され、その理由を問うと「女のにおいがする」と言われてしったそうです。
事実彼は前日、現地の娼婦と床を共にしていました。実際のところ、その相手となった女性も取材の対象であり、写真活動の主体でしかありませんでした。
娼婦(女性)と寝ることに、それまでなんら罪悪感を抱くこともなかった筆者でしたが(普通それが一般的ですが)。そんな「僧の質」を具備した人間と出会ったことで、その本質に強く惹かれ、女性に触れることを控えるように。
その後インドに渡った彼は、多くの死を目の当たりにしました。それらに対し写真家としてシャッターを切るうちに、写真を撮ることで損なわれるものに気が付くように。
凄惨な現実と向き合ううちに「人の死は、ただの肉である」と感じるにいたり、カメラを手放して命がけの修行を始めることにしたそうです。
いち報道マンが「ミイラ取りがミイラになる」ように、取材している対象側の世界に移っていく。
ままあることかもしれませんが、筆者のそれは異質です。
サブタイトルにもなっている「五体投地」とは、両手、両膝、額を地にひれ伏す、礼拝のことを指します。筆者はこの行を、一日10時間、18年にわたって修行として実践しました。
そこにいたる過程は実に壮絶です。
先日おすすめした、インド仏教を率いる佐々井秀麗上人や、佐々井上人も尊敬する八木上人についても触れられており、タイトルの「チベット仏教」というよりは、現代のアジア諸国における仏教の様子について知ることができる一冊でもありす。また、現代の日本仏教のありようの疑問にも触れられます。
リアルで悲惨な描写は、いっそ目をそむけたくなる現実です。
普段考えたこともないような、日本人には想像もつかないような、生死の境目が薄い日常が今も地球上のどこかにある。それを改めて考えさせられました。
教養としての仏教の幅を広げるのに最適な著書です。多くの人に、このような日本人僧侶がいることを、本書を通して知っていただきたいと思います。
Book:8「チベット仏教の真実: 「五体投地」四百万回満行の軌跡」(2009)野口 法蔵 著

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