「おばぁの様子がおかしいってば」
東京の仕事を辞め、沖縄県粟国島で祖父母と暮らし始めた奈々子。
朝ドラで『ちゅらさん』でお馴染み、平良とみさん扮するおばあの、なんだかソワソワと落ち着きのない様子に不安を覚えます。
想い人と結ばれず、親の決めた相手と結婚するのが当たり前だった時代。
映画のおばあナビィは、「おばあ」になって再開した初恋相手サンラーと、互いの思いを確かめあいます。
沖縄県内で先行上映された際、地元のおばあたちからスタンディングオベーションの嵐だったと聞きました。彼女たちには多かれ少なかれ、共感する過去があったのでしょう。
年配者の恋愛を描く数少ない物語。
背景を彩るのは沖縄の青い海と空、ナビィが大切に育てるブーゲンビリアのマジェンダがそこに映えます。そして島唄と見事に融合されたヴァイオリン。
洗練されているというより、いっそ荒々しいのに、その美しさに引き込まれます。
ストーリー自体は、サクサクと進んでいきます。構成はどちらかといえば淡白で、奈々子を演じる西田尚美さん以外の演者たちは、役者としては素人な方も多くセリフも棒読みだったりします。
しかしミュージカル調で要所要所に、島唄はじめとする民族音楽が効果的に挿入され映画に息吹を吹き込みます。
村人の一員として登場する、島唄のレジェンド嘉手苅林昌や大城美佐子の歌声。
商店を営む麗子の情熱的なカルメン。その夫でアイルランド人のオコーナーが、「島人バンド」仲間と様々な楽器を駆使して、アイルランド音楽やケルト民謡を演奏。
そもそもナビィの年下の夫、おじい恵達役の登川誠仁氏も、11歳からの飲酒でのどをつぶしたという渋い声音の唄者。
そんな登場人物たちによって繰り返し歌われる「19の春」は、それぞれの個性を見せつけあうかのようです。
全体を通して笑いとシリアス、淡白さと芸術性。それら緩急のつけ方が、もちろん監督の計算なのでしょうが、なんともよい兼ね合いなのです。
奈々子のもとに、すっと入り込むバックパッカー福之助。
そんな福之助に適当なアドバイスをするおじい。
なんとも沖縄的なこの男女間のゆるさもいいですね。
ナビィがおじいのことを話すとき「おじいは若いから~」というのもかわいい。
そして口数少ないおじいが、サプライズでおばあにマッサージチェアをプレゼントするくだりは、大好きさが伝わり泣けます。
そんなおじいを裏切ってサンラーと落ち合う様に、おそらく鑑賞した人(特に若者、当時若かった私もご多聞に漏れず)は、一度おばあを嫌いになること請け合いです。
しかしナビィ役の平良とみさんと、サンラーを演じる平良進さんは、実生活で本物の夫婦。それを知れば、少しは溜飲が下がるかもしれません。
どんな落としどころに行き着くのか。
私は初めてこの映画を鑑賞し終えたときに、「おばぁは愛してるランドに行くさ~」という明るいナビィに号泣しすぎて、過呼吸になるかと思いました。
ナビィおばあ、恵達おじい、サンラー、嘉手苅林昌氏、皆さんすでに鬼籍に入られました。
しかし映画を見返すたびに、彼らの力強い生命力を感じ、沖縄の来たした歴史すら思い知らされます。
この南国の夢のような物語を、多くの人に一度浸っていただきたい。心からおすすめしたい一作です。
Movie:8「ナビィの恋」(1999)

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