小学校の教科書で「星新一氏のショートショート」に感銘を受け、片端から著書を制覇した中学時代。
その魅力は今更語るまでもないでしょう。
一通り読み終え、星氏の長編も手にしたのですが、やはり「ショートショート」が読みたい。
ジャンルロスに陥った私は、別の方の作品を探したのですが。あまたの素晴らしい作家がひしめく中で、その分野に手を染める方がほぼいない事実に気が付き、ただ驚愕でした。
星氏お一人であれだけの著書があるのに、ほかの作家さんの作品はほぼないとはナニゴト?
ただただ不思議に思ったものです。
まあしかし少ないながら、他の作家さんによるショートショートもありはしました。
さっそく2冊ほど手にしたところで、いかに星新一氏が「神」の名に値するのかを思い知らされただけでした。
往々にして落ちが弱い。というか落としきれていない。というかなんのひねりもない。
宇宙人が「我々が『繁栄の花』と名付けた意味が分かったでしょう」と語ったレベルの衝撃には、星作品以外では永遠に出会えない、と確信。
というわけで、星新一作品を読み返す以外手立てはなく、新作は今後生まれることはない。
泣く泣くその事実を受け入れたのでした。
まああれだけの数を残してくださったのだから、それで十分かもしれませんが。
そんなときに手にしたのが、この作品でした。
星新一賛美はもう信仰の域に達していたので、そこと同じ世界はもはや別宇宙として脇に置いといて、きちんと「ショートショート」が成立している物語にやっと出会えたことに安堵を覚えたものです。
偉そうですね、すみません。
星進一作品は、基本がSFですよね。未来予見に近いものも散見されるほど、人類の歩みの革新を突いた、機知に富んだ世界観です。時にブラックで、いっそ心から「怖い」ものもあります。
対する阿刀田氏の作品は、大人の洒脱な世界観です。
ブラックユーモアは共通項ですが、エロスのスパイスが効いているところが大きく異なります。
星氏の作品では、ほぼお目見えしませんからね。
世界各国の古典に精通する阿刀田氏は、宗教的背景も含め多くの随筆も執筆されています。
特にギリシア神話への造詣が深く、「物語」の原型を熟知していらっしゃる。そこで古代のおおらかな性の解放は随所ににじみ出るのでしょう。
男女のつきあいにおける微妙な変化、心だったり身体だったり、をショートショートの中にうまく盛り込む技術は秀逸です。
氏の文筆はまた、流れるような筆致で登場人物が語りかけるもので、はたと気が付けば一話完結しているような読み口の心地よさも特徴でしょう。
いずれにせよ、星新一の次世代を担うとしたら、この方を置いてほかにはいません。
この作品も、一話はほんのひとときで読めてしまうものですから、ただ手に取っていただきたい。
そしてお気に召したら短編集を、そして阿刀田ワールド全開な長編ミステリーにもぜひ着手ください。
先に挙げたエッセイ各種も、軽妙な語り口が癖になりますよ!
本家神様に導かれた読者の皆様。ショートショートのアナザーワールドを、ぜひお試しください。
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