Day58:「下流老人」藤田 孝典 著(2015)

日本の社会活動家で、NPO法人を運営されている藤田孝典氏の著書です。
先に断っておきますと、この方いわくつきです。先の法人で貧困ビジネス(貧困者の救済に関する助成金などの不適切な受給等)の疑いがあったり、近年はSNSで炎上騒ぎを起こしたり。記憶に新しいところでは、ナイナイ岡村さんの「お嬢(風俗嬢)」発言を、事実を誤認させる(不適切だったのは確かですが)言いまわしで(必要以上に)騒ぎ立て、問題を大きくしたお方です。
お名前でネット検索すれば、その手の情報がたくさん出てくるはずです。

そんな方の著書ではありますが、まあ問題提起という意味で悪くない一冊です。
実際にこの本を読んだ(話題となっていた出版初期)当初は、日本が大変だ!と危機感をあおられ、国民に警鐘を鳴らす重要な本だと素直に受け取ったものですが。

タイトルの「下流老人」という言葉は著者の造語で、その年の新語・流行語にノミネートされました。
私は新書を読むとき、かなりパケ買いならぬタイトル買いするので、こういう言葉を生み出せること自体にはセンスを感じます。
とはいえこれは、あまりいいイメージの言葉ではありませんね。実際に危機を感じさせる意味合いを含むので、今にして思えば、やたらとまわりを扇動しようとする、氏の才能の一環といえるかもしれません。

筆者はこの言葉を「生活保護基準相当で暮らす高齢者およびその恐れがある高齢者」と定義しています。
「生活保護」自体が「健康で文化的な最低限度の生活」という、憲法が保障する水準を満たさない状況の方が対象の制度です。
その上で高齢者ということであれば、より差し迫った状態であることが伝わります。

そんな高齢者たちを目の当たりにする現場において、その数が想定以上に多いこと。若いうちに十分な貯蓄をしていたり、高所得者だったりした方も例外でないことを、あらゆるデータや実例をもとに説明しています。
出版当時は「団塊の世代(戦後のベビーブーム1947年生)」という大量の高齢者(もしくは予備軍)が年金や行政サービスをひっ迫する可能性があった頃です。
らに、その子どもたち「団塊ジュニア」は、バブル後の社会で働き始めた、非正規雇用(フリーターという言葉に踊らされたきらいも)などワーキングプアの多い世代でもあります。
親子共倒れの要素は満載です。
この団塊世代が後期高齢者に差し掛かる現在、また状況は色々変わってきてはいますが、今読んでも納得の「意外な落とし穴」などが述べられていて、考えさせられます。

本書自体は「下流老人にならない方法」というより、いかにして下流老人が生み出され、どうやって彼らを救うべきか、が論点となっています。
不安をあおりすぎる事例もありますが、「1日1~2食しか食事ができない」ないし「身体に不調があっても病院にいけない」経済状況にありながら、その多くが「自分でどうにかしなければ」と感じているというのは、大きな問題でしょう。
確かに、誰かに頼る、それが家族ならばまだしも(おそらく家族であっても)、「他人」や「行政」に助けを求めるのは、彼らにはハードルが高いはず。

その上で筆者がさらに問題視しているのは、「そんな状況になったのは自己責任」だとみなす、社会の方です。これは非常に耳が痛い。
「生活保護」を受けながらのほほんと暮らす人たちのために、なぜ真面目に働く人間が、彼らのしりぬぐいをしなければいけないのか。私自身、そう思ったことがあるのは確かです。
わかってはいるのです。様々な要素が重なり、働けない人達は一定数存在する。
さらに高齢者であれば、年金を十分にもらえなかったり、貯金がなかったりする人すべてが、決して怠惰に生きてきたわけでないことも。
正常な社会ではセーフティネットは必須です。それでもどこかで「努力が足りないくせに」と感じてしまう。
その「無自覚」な圧迫が、貧困にあえぐ人々を躊躇させているのは紛れもない事実です。
そのことを認識することが第一歩。最近こそ政府が「受援力」などという言葉も打ち出していますが。
10年前の著書に、未だ教えられるのも情けないですね。

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