Day57:「時の石」栗本薫著(1983)

栗本氏といえば、約30年間の活動期間内に、新刊だけで約400冊の作品を発表したという人物。
執筆が非常に早く、自身で読み直しや推敲・校正もほとんどしなかったということですが、もちろんその筆致は卓越したものです。
ジャンルはSF、ファンタジー、伝奇・時代小説、ホラー、ミステリー、耽美小説など多岐にわたり、評論や作曲にまで手を染める、多才ぶりで知られています。

彼女の小説を初めて手にしたのは高校生の時でした。
今でいう「腐女子」の友人からBL作品をいくつか紹介された一つが、氏の『終わりのないラブソング』でした。
生々しい性描写もありながら実は純愛という、正統派BLのさきがけの作品だったようですね。
馴染みのないジャンルでしたが、はじめての世界に加え、奇抜なようで確かなストーリー展開に感動したものです。
おかげで彼女の著書自体のファンになり、ミステリーやホラー作品など何冊か読ませていただきました。

本日ご紹介するのは、3本の作品が収められたSF短編小説の一冊。ずいぶん古い作品です。
私自身読んだのは確かまだ学生時分、20歳前後の頃だったと思いますが、

その2本目の「かび」が衝撃的でした。タイトル通り、カビが主体となる作品ですが、とにかくその繁殖ぶりの描写が恐ろしかった。しばらくの間潔癖症になった記憶があります。
とはいえ所詮ハタチそこそこの小娘の感覚だからなあと、2倍以上の年齢となった今、確認のため読み返してみました。
はい、間違いなくトラウマ級でした。

先にお伝えしたように、執筆スピードのある方だからでしょうか。
まず文体にかなり勢いがあります。さすがに40年前の作品とあって、主人公の女性や友人の結婚観や男性への接し方が、前時代的でいささか気になるかもしれません。
それにしても、身近なかびを題材にして、誰もが容易に想像できて、誰もが確実に震え上がるこの内容は秀逸。
もっといえば、コロナ禍を経た今だからこそ、その微細な脅威(ウイルスと黴はまったく別物ではありますが)がより切実さを感じさせるかもしれません。

ちなみに、表題作はじめとする他2編は、シュールすぎて読みづらいかもしれません。もしこの本を手にしたのならば、ご紹介した「黴」からぜひお読みください。
20~30分で読み終える短編ですので、内容はこれ以上触れないでおきましょう。
栗本ワールドのごく入口として、ぜひお見知りおきを。

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