3 以上の自然数 n について、xn + yn = zn となる自然数の組 (x, y, z) は存在しない
これが「フェルマーの定理」と呼ばれるものです。
その提唱者フェルマーが、なかなかの曲者だったらしく…
「この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。」
というメモ書きが彼の死後、1670年に発見されたのみでした。
本当に証明できていたのか?と疑う向きもありますが、実際に彼は「計算用紙」を用意せず、問題の余白を使うのが常であったため、証明できていても書き残すのが困難であったことは事実。
この定理を世に打ち出した功績において、リスペクトするにとどめるべきでしょう。
この一見シンプルな定理の証明は、何度も賞金がかけられブームにもなり、世界中の数学者(及び数学愛好家)たちが挑み続けることとなります。
しかしフェルマーのいたずらでしょうか。360年もの長きにわたって解決をみることなく、彼らを翻弄し続けました。
この本は1995年、ついにその謎を解き明かした数学者アンドリュー・ワイルズの、完全証明までの足跡をまとめたドキュメンタリーです。
もちろん、それ以前の挑戦者たちの歩みについても、余すところなく記されています。
n=2であるx2+y2=z2は、中学校で習う三平方の定理(ピタゴラスの定理)でおなじみです。
私自身でいえば、これが「3乗以上だと成り立つものが存在しない」と初めて知ったとき
「2乗では無数に成り立つのに、それ以上だと1つも存在しないなんておもしろいな」
とは確かに思いましたが、特にそれ以上の興味はそそられませんでした。
しかし誰もが理解できそうな、手を伸ばせば届きそうな、この無駄のない数式の美しさこそが、数学のプロやマニアたちを惹き付けてやまなかったのだろう、と理解はできます。
ではこの3世紀もの間、まったく発見はなかったのか。もちろんそうではありません。
まずn=4におけるフェルマー自身の証明のメモが見つかります。見つけたのは「オイラーの公式」で知られる18世紀の数学者レオンハルト・オイラーでした。
そして彼自身はn=3についての証明を行います。
素数の証明が肝要だとわかりn=5、7、そして100までの奇素数などの証明も次々となされていきました。しかし一般項における証明にはなかなか至りません。
アンドリュー・ワイルズはこの定理の証明にあたり、「谷山–志村予想」が大きなカギとなることに気が付きました。
31歳の若さで自ら死を選んだ数学者:谷山豊によって1955年提起され、
1960年代以降に数学者:志村五郎によって定式化されたものです。
突然日本人の名前が出てきたのには驚きましたが、この壮大な歴史的ロマンの大きな一端を担った彼らの記述は、日本人として必読!と断言します。
証明に関する定理や数式など、チンプンカンプンな部分も多々ありますが。
本書のテーマは「証明の説明」ではなく、そこにいたる人々の奮闘記です。
文系の方、いっそ数学の苦手な方こそ敬遠しないでください。
これは多くの人を魅了した、宝物を探す旅です。
ノンフィクションドラマとして、未知の世界への冒険譚をお楽しみください。
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