したパトカーとのカーレースが展開。と思えばハンドルを握る黒人男性が、警察を振り切れるか賭けを申し出たり、ひと段落後ポップな『September』が車内に流れ出し、茶目っ気たっぷりに歌いだしたり。実はこれ、二人のキャラクターや関係性を暗示したものなのですが。二人は一体何者?といぶかしく感じながら引き込こまれてしまいます。
これは実話をもとにした、フランスの大ヒット映画です。パリに住む富豪のフィリップは、頸髄損傷で首から下を動かすことができず、24時間介護が必要な身です。しかし気難しい彼のもとでは、住み込みの介護人は長続きしません。新たに候補者を募集していたところ、面接に来た一人がスラム街出身の黒人男性ドリスでした。実はドリス、失業保険をもらうために就職活動の実績(不合格の証明書類)が欲しいだけでした。ところが何を思ったのか、フィリップは周囲の反対を押し切って、介護や看護の資格も経験もないドリスを雇うことにするのです。
ぶっきらぼうで、ともすれば粗暴なふるまいのドリスですが、誰に対しても裏表がない素直な青年でした。重度の障害があり雇用主でもあるフィリップのことも、「ハレモノの障害者」ではなく「対等な一個人」として接する彼に、フィリップは次第に心を開いていきます。
そのやりとりはコミカルなのですが、時にブラックに過ぎるところ(チョコレートを食べるドリスに、1つくれというフィリップに対し「これは健常者用だ」とからかうなど)もあります。人種・貧困といった、フランス社会の闇を感じる一面もあります。それでも全体的には、人の温かさを感じ、ユーモアを楽しめる作品です。
1993年パラグライダーの事故で四肢麻痺になり、数年後に妻をがんで亡くした実在の人物フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴ。その経験と人生への復帰について、自身や妻の話と共に、介護人アブデル・ヤスミン・セローとのことを書いた書籍『Le Second Souffle(第二の呼吸)』が2001年出版されました。それをもとに2003年ドキュメンタリーが製作され、さらに映画化されたのが本作です。実際とは異なる設定もあるものの、二人の絆と友情(映画では1年ほどですが、実際は10年以上共に過ごしたそうです)は素直に胸を打ちます。映画の最後に、モデルとなったご本人たちの映像が流れますが、その二人の姿がまたいい。正直、アブデル(映画内では「ドリス」)役の俳優オマール・シーが、ご本人よりかっこよすぎるのですが(すみません…)、それすらご本人がネタにされているのでは?と思しきキャラクターを見て取れます。ちなみにオマール・シーは、ネットフリックスオリジナルドラマ『ルパン』の主人公を演じていて、これがめたくそかっこいいです(ストーリーも最高です)。ファンになられた方はぜひぜひご視聴ください。
劇中でフィリップが「今の医学では、私は70歳まで生きられるらしい」と話しているシーンがありましたが、実際にモデルとなったフィリップ氏は2023年、72歳で亡くなられたそうです。苦難多き人生においても、誰より自由な心をお持ちの方だったと拝察いたします。心より、ご冥福をお祈りいたします。
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