2020年急逝された美容家の佐伯チズさん。
76歳ですから早すぎる死とまでは言えないかもしれませんが。まだまだ現役でいらしたので、私のみならず多くの方がショックを受けたはずです。
彼女の著書が一世を風靡し、時の人となった頃、私はワーキングホリデーでオーストラリアに滞在しておりました。
オゾンホール(南極のオゾン層ダメージ)で紫外線が強いと言われるオーストラリアでは、健康被害(皮膚がん等)を防ぐために、その対策は深刻なものでした。
今では日本でも当たり前になった、おチビちゃんの日よけ帽子を初めて目にしたのは2003年、オーストラリアでのこと。小学生以下の子どもたちが当たり前にかぶっておりました。
私自身もともと色が白く、日焼けをしても赤くなるだけで元に戻る体質。ですから20代半ばまで日焼け対策をほとんどしたことがありませんでした。
しかしそんな環境でしたから、さすがにサングラスと帽子を常備し、日焼け止めを毎日塗るのが習慣に。
そんな帰国後、佐伯氏の『美肌革命』に衝撃を受け、今度は美容のために日焼け対策を徹底するようになったのです。
中学生の頃オードリー・ヘプバーンを雑誌で目にして、憧れから美容に目覚めたという佐伯チズさん。
美肌の伝道師としてブレイク当時、グレイヘア(実際は紫のカラーリングがトレードマーク)ながらツヤツヤ美肌をキープする彼女が、テレビで「私は15歳でお日様とさよならしました」とおっしゃっていたのを聞いた時には、私の美白は完全に遅きに失した…と愕然としたのを覚えております。
私自身も中学生の頃、映画でヘプバーンの美貌の虜になった一人です。(『ローマの休日』の紹介をご参照いただければ)
しかし残念ながら美容に目覚めるにはいたらず、あろうことか故郷南国の奄美大島で、小中では屋外プールの水泳部(練習がきつくてさぼりがちでしたが)で日を浴びまくっておりました。さらに父が大の海好きで、夏休みなど毎週末、家族そろって白浜と海水の照り返しに身をさらす暴挙に出ながら、なんら危機感をもつこともなかった子ども時代を過ごしていたのです。
しかも18歳で進学のため、さらに南下して沖縄へ。強い日差しをものともせず、青春を謳歌しておりました。
そして命の危機を感じる26歳まで、それはそれは無防備に国内最大級の紫外線を浴びまくってきたのです。
その余波は、濃いシミの発生と肌のくすみという形で、28歳頃に現れました。
そんな私がギリギリ20代で佐伯氏を知ったのは、まだ救いだったのではないでしょうか。
彼女は多くのメディアで露出を重ね、著書も次々と出していきました。
ゲランというフランスの香水メーカーで勤め、かのクリスチャン・ディオールで敏腕を振るってきたくらいですから、高級化粧品の効能を知り尽くしたお方です。
しかし彼女が提唱したのは、ローションパックで知られる、誰にでもできる安価な美容法でした。
高価で高機能な製品に頼るのではなく、工夫と手間でそれに近づけるやり方です。
それは多くの女性を美しくしたいという、美容家魂が生み出した技。その心意気も相まって、彼女の美容法は多くの女性に支持されました。
さて本題に入りますが、ご紹介する「夢は薬 諦めは毒」は、彼女が常々口にしていたという名言をタイトルにした、遺言ともいえる思いをつづった一冊です。
私にはまた夢が一つ増えました。それは、このALSという病気を世間の皆さまにもっと知ってもらうこと。最新の医療技術をもってしても、進行を遅らせるしか術がないこの病気を、たくさんの方に知ってもらうことでALSの治癒、寛解という希望の光がこの先の未来に差すことを祈っています。
「はじめに」の抜粋です。ALS(筋萎縮性側索硬化症)発覚後、症状が進行する中、タイトル通りに病と向き合ったお姿がみてとれます。
そんな本書では、ご自身の心情や信条を、33のメッセージとして振り返っておられます。
また本題以外に「佐伯式美肌メソッド」や「お取り寄せ暦」など、改めて参照したい内容も盛りだくさんで、とても読みやすい仕様になっています。
2度の流産を経験し、42歳で最愛のご主人を失い。仕事では辛酸をなめ、手ひどい裏切りにもあい。
そんな波乱万丈な人生にめげることなく、「一人でも多く方をキレイにしてあげたい!」その一心で、たくさんの女性の幸せに寄り添ってきた人生。
誰よりも女性らしい繊細さを持ちながら、実に男前な生き様です。
ご主人を亡くした際に心身ともにボロボロになりながらも、そのご主人のために再度美しくあろうと、自身を奮い立たせたという佐伯チズさん。彼女の語る、「いくつからでもキレイになれる」というメッセージは、真実に満ちています。
そして病に打ち勝つ心意気しか感じない、最後のメッセージ。
本書の記載ではありませんが、最期まで病床でもお肌のお手入れを続けられたという佐伯チズさん。
80歳までの人生設計が明確だった彼女にとっては、きっとまだまだ志半ばでいらしたのでしょう。
その美への真摯な姿は、知るほどにこちらも襟を正す思いです。
たかが美容?そう思う人もいるかもしれません。
しかし美容は心の持ちようまで変えてくれる、誰かの人生をも一変させうる大きな要素です。
歴史的・社会的にも苦しんできた、あるいは今も苦しむ、世界中のすべての女性をもキレイにしたい。
そんな思いを胸に、一人の女性が切り開いた道のり。
それを垣間見る一冊を、手にしてみませんか。
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