宮部氏の作品といえば現代が舞台のSFファンタジー・ミステリー、時代物の捕り物・ホラー作品などその内容は多岐にわたり、かついずれも高い評価を受けているマルチな小説家です。
「社会派」と位置付けられるような現代社会の闇に切り込むテーマも多く、時代小説でもハッと考えさせられる内容が多く盛り込まれています。
好みは分かれるかもしれませんが、いずれも読み応え十分な作品ばかり。私ごときでは甲乙つけがたく、正直おすすめを絞るのはかなり困難です。
そこで、いい意味で異色かな?と思うこの1冊をまず選んでみました。
私は普段時代小説を好みませんが、彼女のそれは大好きです。
捕り物劇にせよお化けの物語にしろ、「江戸」という時代と場所を常に魅力的に描いていて、憧れすら抱かせます。
ところがこの作品は、時代は幕末で舞台を江戸から離れた小藩においています。
そして歴史上の人物をモデルとして描いている、唯一の物語になります。
あくまでフィクションではありますが、その時代の政治の在り方、位のある人間と市井の人々との隔たりなど、多くのひずみを見せつけられます。
主人公は阿呆の「ほう」と命名されたという、捨て子同然の少女です。現代でいうネグレクトにより、読み書きはおろか日常的な些末な常識も何も知らない、やせ細った(発育の遅れた)女の子です。
非道な大人たちに翻弄されてきた少女でしたが、その清らかな心をくもらせることはありませんでした。やがて多くの優しい大人たちと触れ合うようになり、彼女の日常は少しずつ変容していきます。
そんな彼女は、本来関わるはずもない、流刑に処せられた幕府の要人・加賀殿の身の回りのお世話をすることになります。加賀殿は妻子を手にかけた鬼と称される人物であったため、皆に恐れられ疎まれ、ついに末端のほうが奉公人となったためでした。
しかし加賀殿は彼女に読み書きを教え、新たな道を見つめ始めた「方」という名前を与えます。
そんな彼女は当惑しつつも、まっさらな心で加賀殿に高潔な人柄を垣間みるのです。
加賀殿は、本当に無慈悲な罪人なのか?
苦難を乗り越え辛い現実と向き合い、濁りのない眼で真実を見極めようとする幼い少女。
そんな魂の成長を、ぜひ見届けてください。
「ほう」という名のゆくすえとともに。
Book:5「孤宿の人」(2005)宮部 みゆき

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